クマに襲われた人たちの“深刻な現状”――「命に別状はない」ではすまされない体と心に残る深い傷。“クマ外傷”治療にあたる救急医から学ぶこと


 よく「命には別状がなかった」などと報じられるが、実は「助かってよかった」ではすまされない“深刻な現状”がある。この問題から私たちが学ぶべきことは何か。

【CT画像を見る】クマに襲われ、顔の骨が複雑に折れた患者さんの3D-CT画像

 これまで30年以上にわたり100件以上のクマ外傷の治療にあたってきた救急医の中永士師明(なかえはじめ)さん(秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系救急・集中治療医学講座教授)に話を聞いた。

■新聞配達中にクマに襲われて

 秋田大学医学部附属病院の高度救命救急センターで、クマによって負った傷、いわゆる「クマ外傷」の治療にあたっている中永さんは、負傷者がクマと遭遇したときの状況をこう話す。

 「ある男性は、早朝、新聞配達のためにバイクから降りて、少し奥にある民家の玄関まで歩いていったところ、脇にあるヤブから突然クマが飛び出してきて、襲われたそうです。アッと思ったときにはもう遅かったといいます」

 一方、最近では遠くからクマが走ってきて襲われたというケースもある。

 「別の方は、朝ランニングをしていたところ、10mほど向こうにクマが見えたそうです。通常、クマは人間を避けるはずですが、このクマは驚くことにまっすぐに向かってきて、気がついたら襲われていたといいます」と中永さんは話す。クマは時速40〜50kmのスピードで走ることができるため、逃げるのは不可能に近い。

 「当院が診た9割のケースでは、顔を損傷しています。クマは自分のほうが強いと見せる威嚇のために立ち上がり、前足を左右に振るため、ちょうど顔に当たりやすいんだと思います。また、人間を含む動物の急所は目などのある顔だとわかっているのかもしれません」

 一方で、報道でよく見かける「腹部の損傷」はそれほど多くない。ごく一部のクマに限られるそうだ。



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