秋田のイオンにクマ侵入、都市部で相次ぐクマ出没の背景と歴史

2025年11月16日、秋田県能代市の「イオン能代店」にクマが侵入し、約2時間半後に駆除されるという事件が発生しました。冬眠を控える11月半ばを過ぎてもクマによる人身被害は収まらず、都市部での出没が社会問題として深刻化しています。ノンフィクション作家であり人喰い熊評論家の中山茂大氏は、約80年分の北海道の地元紙を調査しヒグマによる事件をデータベース化しており、過去にも繁華街や住宅街でクマが騒動を引き起こした事例が多数記録されていると指摘します。

都市部で繰り返されるクマの出没と対策

秋田のイオン能代店でのクマ侵入は、今年10月に群馬県沼田市のスーパー「フレッセイ沼田恩田店」に体長1.4メートルのクマが侵入した事例や、昨年12月に秋田県秋田市のスーパー「いとく土崎みなと店」に50時間以上居座り続けたクマの記憶が新しい中での出来事でした。これらの事態を受け、一部自治体では「センサー式自動ドア」を「手動式」に変更するなどの対策を講じており、もはや繁華街でのクマの出没は驚くべきことではなくなりつつあります。

秋田のイオンに侵入したクマのイメージ写真秋田のイオンに侵入したクマのイメージ写真

中山茂大氏は、自身の著書『神々の復讐』(講談社)において、北海道のヒグマ事件に関する広範なデータに基づいて、過去にも都市部にクマが乱入して大きな騒ぎになった事例を記録しています。これは、現代のクマ出没が孤立した現象ではなく、歴史的にも繰り返されてきた課題であることを示唆しています。

明治時代の記録に見る「都市のクマ」騒動

過去の記録を遡ると、明治時代にも都市部でのクマ騒動が報告されています。明治8年8月3日の「読売新聞」には、岡山県津山での大規模な事件が描かれています。美作の国入庭郡下茅村の百姓が飼っていたクマを、久世駅中町の中川善八が買い受けたものの、ある日突然凶暴化し、繋がれていた鉄鎖を捻り切り、囲いを壊して逃げ出しました。

クマは人々を襲い、家屋に侵入して大暴れしました。記事によれば、子供を抱えた親が隠れる中、クマは隣家にも押し入り、酒に酔って寝ていた亭主とその息子が逃げ出す一幕もありました。最終的には一人の子供に重傷を負わせるなど、怪我人も多数出て、家々に損害を与える大騒ぎとなりましたが、幸いにも死者は出ませんでした。この記録は、現代の都市でのクマ出没がいかに危険であるか、そしてその潜在的なリスクが過去から存在していたことを教えてくれます。

過去から現在へ:都市とクマの共存課題

明治時代の津山の事例から、現代の秋田、群馬のスーパー侵入事件に至るまで、都市空間とクマの接点は常に緊張をはらんでいます。かつては飼育下のクマが引き起こした騒動であったものが、現在では生息域の拡大や餌を求めて市街地に迷い込む野生のクマによるものが主となっています。これは、人間活動の拡大と野生動物の生息環境の変化が複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。

都市部にクマが出没する問題は、単なる迷惑行為にとどまらず、人々の安全を脅かす深刻な社会問題です。これまでの歴史的背景を理解し、現在の状況を踏まえた上で、今後どのように都市とクマが共存していくのか、あるいは人間社会がクマとの距離をどう設定していくのかが問われています。