米ヘヴィメタルシーンの重鎮、スリップノットが、その楽曲カタログの過半数を米投資会社HarbourView Equity Partnersに売却したことが明らかになりました。この取引には、楽曲の出版権やレコーディングのロイヤルティ権が含まれ、その額は約190億円規模と報じられています。今回の売却は、バンドの長年にわたる音楽活動の集大成であり、同時に現代の音楽業界における新たな資金調達と資産管理のトレンドを象徴するものとして注目されています。
スリップノット「次世代へ継承」:クラウンが語る意図
バンドの創設メンバーであるマイケル “クラウン” クレイハンは、今回の売却について「スリップノットが築き上げてきたものを継承し、さらに大きくしようとするパートナーに出会えた」とコメントしています。クレイハンは、『The Hollywood Reporter』への声明で、「25年間、音楽ビジネスと対峙してきた私たちは、スリップノットが始めたことを継続する意志のあるパートナーを得た。しかも彼らは、さらに巨大なものにしたいと考えている。準備しておけ。Hail The Knot」と述べ、バンドの遺産を未来へと繋ぎ、さらに発展させる意欲を強調しました。
スリップノットのメンバーがステージで情熱的なパフォーマンスを披露する様子
HarbourView Equity Partners:多様なアーティストカタログを取得
スリップノットの楽曲カタログを取得したHarbourView Equity Partnersは、音楽業界において急速に存在感を高めている投資会社です。彼らは今年初めにもケリー・クラークソンのカタログの一部を取得したほか、パット・ベネター&ニール・ジラルド、クリスティン・マクヴィー、T-Pain、ロドニー “Darkchild” ジャーキンス、ジェームス・フォントロイ、ジョージ・ベンソン、ルイス・フォンシ、ネリー、ウィズ・カリファ、ケイン・ブラウンなど、幅広いジャンルの著名アーティストのカタログを次々と買収しています。これは、同社が音楽資産の長期的な価値を見出し、積極的に投資していることを示しています。
「世界的なカルチャー現象」:HarbourView CEOが語るスリップノットの価値
HarbourView Equity Partnersの創業者兼CEOであるシャリース・クラークは、スリップノットの音楽が「ヘヴィメタルを再定義し、世界的なカルチャー現象を生み出した」と評価しています。彼女は声明で、「彼らのカタログは、その影響力、情熱、そしてジャンル内での揺るぎないアーティスト性を証明するものです。私たちは常にカルチャーの動向を読み取り、オーディエンスの反応を綿密に分析していますが、1990年代から現在に至るまでスリップノットが与えてきた文化的インパクトは明らかです。彼らの永続的かつ確固とした存在感は、私たちの投資哲学の核心を成すものであり、HarbourViewは今後数十年、さらには次世代にわたって彼らの作品を保存し、広げていけることを誇りに思います」と語り、スリップノットの作品が持つ普遍的な価値と将来性への期待を表明しました。
音楽ビジネスの潮流:著名アーティストによるカタログ売却
HarbourViewがスリップノットのカタログに支払った正確な金額は公表されていませんが、『Billboard』は今年初めにその価値を1億2,000万ドル(約190億円)と報じています。スリップノットは過去25年間で最も成功したメタルバンドの一つとして知られ、1999年のデビュー以来、多くのメンバー交代を経験しながらも、クレイハン、ギタリストのミック・トムソン、ヴォーカルのコリィ・テイラー、DJ/キーボードのシド・ウィルソンといった中核メンバーは在籍し続けています。最新作は2022年の『The End, So Far』で、この夏はヨーロッパ各地でライブを行い、直近ではオハイオ州のInkcarcerationフェスティバルでパフォーマンスを披露しました。
近年、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ニール・ヤング、ポール・サイモン、スティーヴィー・ニックス、リンジー・バッキンガム、そしてザ・ビーチ・ボーイズなど、数多くの大物アーティストが自身の楽曲カタログを売却する動きが加速しています。これは、アーティストが自身の音楽資産を現金化し、次世代に継承する新たな戦略として、また投資家にとっては安定した収益源となる魅力的な資産として認識されていることを示しています。
今回のスリップノットによるカタログ売却は、彼らの音楽が持つ時代を超えた影響力を再確認させるとともに、デジタル時代における音楽資産の価値と、それを巡るビジネスモデルの進化を浮き彫りにしています。HarbourView Equity Partnersとの提携を通じて、スリップノットの音楽が今後どのように新たな世代へと届けられ、そのレガシーが拡大していくのか、世界の音楽ファンからの注目が集まっています。




