サブスクの「使い放題」は「払い放題」? 無駄な支払いをやめる行動経済学の知恵

現代社会において、「サブスクリプション」、通称「サブスク」という言葉は私たちの生活に深く根付いています。日経MJの2018年ヒット商品番付で「西の大関」に選ばれるなど、その注目度と利用者数は年々増加の一途を辿っています。商品やサービスを一定期間、定額で利用できるこの仕組みは、利便性と経済性の両面から多くのメリットを提供しているように見えます。しかし、この「おトク」に映るサブスクの裏には、知らず知らずのうちに「無駄な支払い」を続けてしまうという落とし穴が潜んでいることも少なくありません。行動経済学の視点から、この「サブスクの罠」とその対処法について掘り下げていきます。

サブスクリプションサービスの光と影:なぜ「お得」に感じるのか

サブスクリプションは、もともと雑誌や新聞の予約購読から派生した言葉ですが、インターネットの普及によりその概念は大きく拡張しました。現在では、活字コンテンツだけでなく、音楽、映像、ソフトウェア、アプリケーション、ゲーム、さらには衣服、雑貨、飲食物、車、住宅に至るまで、あらゆる分野で多様なサブスクサービスが展開されています。ECサイトの会費制配送無料サービスなどもその一種と言えるでしょう。

これらのサービスの最大の魅力は、利用のたびに申し込みや支払いの手続きをする「手間がかからない」という手軽さにあります。そして、頻繁に利用することを前提とすれば、個別に購入するよりも「結果的にお得」になるという経済的なメリットも享受できます。このような利便性と費用対効果の感覚が、多くの人々をサブスクの世界へと誘い込んでいるのです。

隠れた「払い放題」の罠:心理的メカニズムを解き明かす

しかし、サブスクの「使い放題」という謳い文句の裏には、「払い放題」という見過ごされがちな側面が存在します。一度契約してしまえば、その後は個別の支払い手続きが不要になるため、私たちは「支払っている」という実感を失いがちです。特にクレジットカードによる自動引き落としの場合、利用明細に記載されていても、他の買い物の中に紛れてしまい、その存在を意識することが難しくなります。

紙の明細書でサブスクの支払いを確認するイメージ紙の明細書でサブスクの支払いを確認するイメージ

サブスクサービスの多くは自動更新が基本であるため、解約の手続きを取らない限り、「払い放題」は半永久的に続いてしまいます。また、新規顧客獲得のために実施される「初月無料」などのキャンペーンも、新たな落とし穴となり得ます。無料期間中にサービスを体験したものの、その後利用する機会がなくなり、気がつけば契約したこと自体を忘れ、会費だけを払い続けてしまうケースは少なくありません。

解約の障壁:なぜ私たちはサブスクをやめられないのか

さらに、解約プロセスそのものが、私たちが無駄な支払いを続ける要因となることがあります。例えば、月の途中で解約しようとすると「月末までは利用できます」と表示され、一時的に解約を見送ったつもりが、そのこと自体を忘れて契約を継続してしまうことがあります。

また、解約を申し出た顧客に対し、サービス提供側が会費の割引を提示するなどして、引き止めを図る戦略も一般的です。これは、解約に対する抵抗感を高め、サービス利用の有無にかかわらず会費を支払い続ける「放置顧客」を維持するためのものです。売り手側から見れば、利用実態がなくとも収入をもたらしてくれるこれらの顧客は、まさに「極上の存在」と映るのかもしれません。人間の心理的な傾向を利用したこのような戦略は、私たちが本来必要のない支出を続けてしまう大きな理由となっています。

無駄な支払いをなくすための行動経済学アプローチ

サブスクの利便性を享受しつつ、無駄な支払いを避けるためには、私たち自身の行動と心理に対する理解が不可欠です。行動経済学の知見によれば、人間は現状維持バイアスやサンクコスト効果によって、一度始めたことをやめるのが難しい傾向があります。

したがって、定期的に自身のサブスク契約を見直し、利用していないサービスは積極的に解約する習慣を身につけることが重要です。クレジットカードの利用明細を単なる支払い記録としてではなく、定期的なサブスクの棚卸しリストとして活用するのも有効な方法です。また、無料期間を利用する際は、カレンダーに終了日を明記し、リマインダーを設定するなど、意識的な工夫が求められます。

サブスクは私たちの生活を豊かにする可能性を秘めている一方で、その裏に潜む「払い放題」の罠に気づき、賢く管理する意識を持つことが、現代における効果的な節約術と言えるでしょう。