藤井聡氏(経済学者)と木村盛世氏(公衆衛生学者)による書籍『偽善医療』は、日本の医療システムに深く根差す問題に警鐘を鳴らしています。本書は、無駄が多く、患者の利益にならないどころか、時に危害さえ与えているという日本の医療の現状を、統計学に基づいた説得力ある論拠で浮き彫りにします。彼らの指摘は、単なる医療批判に留まらず、国の財政規律、そして大手メディアの報道姿勢にまで及び、日本社会全体が直面する課題を多角的に提示しています。
統計が示す日本の医療の「無駄」と「害」
抗生物質乱用とBCG接種の再考
木村氏によれば、日本はエビデンスに基づかない抗生物質の濫用により、世界で最も耐性菌が多い国という「恥ずかしい状態」にあります。この問題の根源の一つとして挙げられるのがBCG接種です。アメリカでは約40万人規模の大規模比較調査で統計的根拠がないことが判明し、BCG接種を中止しましたが、日本ではわずか20人の被験者に基づき国民接種が決定され、現在も続けられています。その結果、2022年の結核罹患率はアメリカが人口10万人あたり2.5人であるのに対し、日本は8.2人という状況です。
日本の医療問題を示すイメージ写真
さらに、欧米ではがん検診が寿命を延ばさないという統計学的な見解が広がりつつあるにもかかわらず、日本では早期発見・早期治療の重要性が強調され続けています。こうしたエビデンスを軽視した医療慣行が、患者に不必要な負担を与え、医療資源の無駄遣いにつながっていると本書は指摘します。
がん検診の効果とコロナ対策の統計的検証
藤井氏は、新型コロナウイルス感染症への対応についても統計学的な観点から厳しく断罪しています。ワクチン接種に関しては、1万人あたり2人の超過死亡があることを統計的に解明。日本のワクチン接種回数が4億3000万回に上ることを考慮すると、実に7万4千人がワクチン接種によって死亡した計算になると試算します。また、自粛政策についても統計的に根拠がないことを指摘し、それによってどれだけの人がうつ病を発症し、自殺し、あるいはフレイルや要介護状態になったかを問いかけます。これらのデータは、パンデミック対応における意思決定が、必ずしも科学的根拠に基づいていたわけではない可能性を示唆しています。
「偽善医療」が経済に与える影響と財政規律
医療費削減と消費税増税の連鎖
本書は、「偽善医療」が日本経済に与える影響についても言及しています。財務省があらゆる予算(たとえそれが人命に関わるものであっても)をカットする中で、「生命至上主義」の名の下に医療費だけは聖域化され、削減されない現状を批判します。その一方で、財政規律を優先した緊縮財政政策により、他の予算が削られ、消費税が増税されるという悪循環が生じています。藤井氏は、これが日本の長期不況の根本原因であると喝破し、その旗振り役が医師会や医学界の権威たちであると指摘します。医療費の適正化は、単に医療の問題に留まらず、国家財政と国民生活に直結する重要な課題なのです。
書籍「偽善医療」の表紙
医師会・医学界の権威と日本の長期不況
医師会や医学界の権威が、自らの既得権益を守るために、統計的根拠に乏しい医療慣行や政策を推進している可能性が示唆されています。これにより、無駄な医療費が膨らみ、結果として国民の負担が増大し、国の経済成長を阻害しているという構図です。長期的な視点で見れば、国民の健康を守るはずの医療が、かえって経済的な足かせとなっているという皮肉な現実が浮き彫りになっています。
マスコミの「忖度」と情報格差の問題
製薬会社への配慮と報じられない真実
この「偽善医療」を巡る問題には、日本の大手マスコミ、特にテレビの「腐敗」という重大な抜け落ちた観点があるとレビュアーは指摘します。コロナワクチンの害や、アメリカの調査で明らかになった高齢者の大事故の8割が運転障害薬の服用者であるという事実など、国民にとって極めて重要な情報が、製薬会社への「忖度」のためにテレビで一切報道されないという現実です。これにより、国民は真実を知る機会を奪われ、誤った情報に基づいて判断を強いられるという「不幸」な状況に置かれています。
結論
『偽善医療』は、日本の医療、経済、そしてメディアの抱える深い問題を統計学的、経済学的、公衆衛生学的な視点から鋭く分析した一冊です。エビデンスを軽視した医療慣行、それによって生じる経済的負担、そして真実を伝えないメディアの姿勢は、国民の健康と福祉、ひいては国の未来を脅かすものです。本書を読むことは、私たちが「知らされない国民」の状態から脱却し、自らの健康や社会のあり方について主体的に考えるための重要な一歩となるでしょう。
レビュアー情報・協力
精神科医 和田秀樹氏(1960年生まれ、東京大学医学部卒、和田秀樹こころと体のクリニック院長)
協力: 新潮社、週刊新潮 Book Bang編集部





