2017年、はてな匿名ダイアリーに「電話野郎」という言葉が登場した。つまり、一方的に電話をかけてくる人物は鬱陶しいという意見が投稿され、当時これが多数の共感を得た。投稿者によると、電話とは「相手の時間を奪う行為で、相手の時間や行動を拘束・制限する行為だということ」だそうで、さらには「電話をしてくる人間は仕事ができない」とまで言い切った。この意見に対して、多くの賛同者が現れたのだ。【取材・文=中川淳一郎】
「電話をするのは高齢者だけ」との声も
・電話は集中力を切らされてウザい
・なぜ、Slackやメールで済む話をわざわざ電話してくるのか?
・電話は自分の時間を奪う暴力的ツール
・お前の声なんか聞きたくない
・お前の話は長すぎる。簡潔にメールでまとめてこちらの返事を待て
賛同者の多くは、電話に対し、上記のようなモヤモヤを感じていたのである。その頃は「電話はオワコン」「電話をするのは高齢者だけ」などとも言われていた。昨今の若手社員は、会社にかかってきた電話に出るのが恐ろしいと感じている、とも言われている。何しろ電話に出るまで相手が誰だか分からないし、何を言われるかも分からないからだ。しかしながら、2025年現在も、電話が活用されている現場に私は接している。
私の妻は現在41歳で同業の編集者・ライターである。互いにフリーランスのため、自宅の同じ部屋で仕事をしているのだが、とにかく電話の件数が多い。かかってくることも、かけることも多いのだ。雑誌やフリーペーパーの編集・執筆をしているのだが、校了直前になると、一日20回は電話(ないしはLINE通話)をしている。
相手は20〜50代と広範囲で、若者も彼女に対してバンバン電話をしてくる。内容は文面に関する確認や、取材相手に対して「今日校了なのですが、修正等のお返事いただいていないのですがいかがでしょうか?」といったものだ。彼女が会社に電話をすると誰かが出て、「お待ちください」の一言の後、クラシック音楽であることが多い「保留音」が聞こえてくる。ベートーベンの『エリーゼのために』などである。
そこで「大丈夫ですか?」「大丈夫です!」や「確認させていただけますか?」「あ、すいません、確認しましたが大丈夫です」などと1分程度のやり取りで仕事が終わるのだ。時に「〇〇さんから返事がないのですが、このまま進めて大丈夫ですか?」「はい、構いません。私は大丈夫だと思いますので、〇〇にもそう伝えておきます」などの展開になる。「既読スルー」など一切なく、仕事が円滑に進んでいく。
これを見ていると、プライベートな場面はともかく、電話というものは仕事で未だに役立つんだな、と思うし、電話を躊躇なくかけられる人は案外仕事ができる人なのでは、と思う。
私は現在65歳の男性と一緒に仕事をしているが、彼が頻繁に電話をかけてくる。着信の表示を見ると「またか……」と思うことはあるものの、とにかく彼は私にさっさと指示をし、その仕事を完遂させたいのだ。これを無視した場合、後に折り返さなくてはいけないし、「先程は電話に出られなくて申し訳ありません。××の件ですよね? これについては……」などと説明せねばならず、むしろ時間を取られてしまう。






