日本維新の会による反対意見などを受けて「当面凍結」「増額するかは次の国政選挙後に判断する」と報じられていた国会議員の歳費月額5万円増額問題が、にわかに動きを見せています。11月25日にはNHKが「自民 国会議員の歳費 月額5万円引き上げ 今国会での成立目指す」と報じるなど情報が錯綜し、国民の間には強い不信感が広がっています。経済誌プレジデント元編集長で作家の小倉健一氏は、この動きを「ふざけている」「金額の多寡の問題ではない。自民党政権のモラルの欠如と、構造的な欠陥の問題だ」と厳しく批判しています。
国民生活が苦しむ中、なぜ議員歳費は増額されるのか?
物価高騰に喘ぎ、日々の食費すら切り詰める市井の人々の苦しい生活をよそに、自民党政権は自らの懐を温めることに余念がないように見えます。現在の月額129万4000円から134万4000円への増額は、期末手当や、月額100万円の調査研究広報滞在費、65万円の立法事務費といった非課税かつ使途不明金を含む巨大な公費の上に、さらに5万円を積み上げようとするものです。
高市政権や自民党は「公務員の給与改定に準じた措置である」「民間賃上げの流れを踏まえた」といった、もっともらしい理屈を並べます。あるいは、「優秀な人材を確保するためには高い報酬が必要だ」という、彼らが好む古びた聖域のような論理を持ち出すこともあるでしょう。しかし、ここで我々が冷静に問わなければならないのは、一つの単純かつ冷徹な経済学的疑問です。「自民党議員に高い給料を与えれば、彼らは国民のためにより一層働くようになるのか」という問いです。
国会議員歳費増額に関する報道のイメージ
科学的視点から見る「議員の怠慢」を助長する可能性
多くの人々は漠然と「報酬と成果は比例する」と信じています。給料が上がればモチベーションが上がり、仕事の質も量も向上するはずだと。しかし、その素朴な信頼を粉々に打ち砕く衝撃的な研究結果が存在します。自民党が進めるこの「お手盛り賃上げ」が、科学的に見れば「議員の怠慢」を助長するだけの愚策であることを示す決定的な証拠があるのです。
2017年7月、労働経済学の権威ある研究機関IZAから発表された論文、「Does It Matter How and How Much Politicians Are Paid?(政治家への報酬の支払い方法と金額は重要か?)」がその証拠です。著者はドゥハ・T・アルティンダグ氏、S・エリフ・フィリズ氏、エルダル・テキン氏の3氏。この研究は、トルコ議会で実際に起きた法改正を利用した、極めて精度の高い実証分析であり、政治家の報酬とパフォーマンスの関係に一石を投じています。
この研究結果は、報酬を増やすことが必ずしも政治家のパフォーマンス向上に繋がらないばかりか、特定の条件下ではむしろ逆効果となる可能性を示唆しています。国民の信頼が揺らぐ中での歳費増額は、単なる経済的な問題に留まらず、政治不信をさらに深める要因となりかねません。政治家には、まず国民の困難に寄り添い、透明性のある説明と責任ある行動が求められています。




