コンサルブームの裏側:若者が求める「成長」と「成長実感」の真実

現在、日本で空前のコンサルブームが到来しています。多くの就活生やビジネスパーソンがコンサルティング業界を志望し、企業側もまた課題解決のためにコンサルを求めるこの現象には、一見するとポジティブな「成長」への期待が見え隠れします。しかし、組織開発専門家の勅使川原真衣氏は、このブームの背景には手放しでは褒められない理由があると指摘します。本稿では、若者がコンサルに殺到する動機を「成長」と「成長実感」の観点から深く掘り下げ、その真意を探ります。

なぜコンサル業界が若者に人気なのか

近年のキャリア志向を読み解くキーワードとして「成長」が頻繁に挙げられます。レジー氏の著書『東大生はなぜコンサルを目指すのか』(集英社新書、2025年)も、現代のビジネスパーソンが「成長」を強く求め、その手段としてコンサル業界を選ぶ傾向にあることを示しています。この業界で経験を積めば将来が安泰であるという考え方が広まり、新卒の学生だけでなく、キャリアアップを目指す転職者からも選ばれる職業となっているのです。

実際に、筆者の周りでも「今の会社では他で通用するスキルが身につかないのではないか」「成長している実感が得られない」といった不安を抱える声が聞かれます。就職みらい研究所の「就職プロセス調査(2025年卒)」によれば、内定者が就職先を確定する際の決め手となった項目で「自らの成長が期待できる」が49.1%と第1位に輝いており、この「成長への期待」が就職活動における非常に大きな動機であることが明確です。

「成長」と「成長実感」は別物である

しかし、勅使川原真衣氏は、この「成長」という言葉の裏に隠された「成長実感」という別の側面があるのではないかと疑問を投げかけます。かつて、舟津昌平氏(『Z世代化する社会』著者)との対談で示された見解は、この二つの概念が全く異なることを浮き彫りにしました。

「成長」は本来、5〜10年といった長期スパンで測られるべきものであり、個人のスキルや経験が時間をかけて積み重なり、真に能力が向上していく過程を指します。一方で「成長実感」は、今この瞬間に自身が何かを達成した、あるいは新しい知識を得たという、短期的で瞬間的な感情に過ぎません。多くの人が「成長志向」を語る際、これら長期的な「成長」と短期的な「成長実感」を曖昧なまま扱っていますが、本来は明確に区別して考えるべきであると筆者は主張します。

相談業務を行うビジネスパーソンのイメージ相談業務を行うビジネスパーソンのイメージ

コンサルブーム再考:真の動機は何か

この「成長」と「成長実感」の区別を踏まえると、昨今のコンサルブームに対する見方も変わってきます。新卒でコンサルティングファームを目指す学生や、コンサルへの転職を考えるビジネスパーソンに共通して見られる「今の会社にいて他で通用するかわからない」「成長している感じがしない」という声は、必ずしも長期的な「成長」を追求しているのではなく、むしろ短期的な「成長実感」への渇望を示しているのではないでしょうか。

多くの若者が「成長」という旗印の下にコンサル業界に集まる現状を、「今の若者は「成長」を志向しているのですね!」と安易に捉えるのは早計です。彼らが本当に求めているのは、日々の業務の中で達成感や進歩を感じられる「成長実感」であり、それが得られない環境への漠然とした不安が、コンサル業界への集中を生み出しているのかもしれません。

結論

空前のコンサルブームは、現代の若者のキャリア意識を象徴する現象です。しかし、その背景には、本来の意味での長期的な「成長」だけでなく、目に見える形での「成長実感」を求める心理が強く働いていると解釈できます。企業や個人は、真の能力向上につながる「成長」とは何か、そしてどのようにして「成長実感」を提供し、あるいは得られるのかを深く考察する必要があるでしょう。安易な「成長」志向の裏にある若者の本音を理解し、より本質的なキャリア形成を支援することが、これからの社会に求められています。


参考文献:

  • 勅使川原真衣『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと 仕事にすべてを奪われないために知っておきたい能力主義という社会の仕組み』KADOKAWA
  • レジー『東大生はなぜコンサルを目指すのか』集英社新書、2025年
  • 舟津昌平『Z世代化する社会』東洋経済新報社、2024年
  • 就職みらい研究所「就職プロセス調査(2025年卒)」