大阪・関西万博の陰で:華やかな舞台裏で苦しむ下請け業者たち

10月13日に行われた「大阪・関西万博」の閉会式で、吉村洋文大阪府知事(50)は目に涙を浮かべながら、3万人のボランティアや警備員、医療従事者、学校の先生、スタッフなど、万博に携わったすべての人々に感謝を繰り返しました。しかし、その感謝の言葉の中に、パビリオン建設に汗を流した工事関係者の名前は含まれていませんでした。最大約280億円の黒字が発表され、華々しく幕を閉じた万博の裏側で、深刻な痛手を負い、会社の存続さえ脅かされている「影の立役者」たちがいます。それは、下請けの中小企業です。

大阪・関西万博の陰で:下請け業者を苦しめる「未払い」問題

ジャーナリストの西谷文和氏が取材を続ける中で明らかになったのは、大阪・関西万博のパビリオン建設に関わった11カ国、30社以上にも及ぶ下請け業者への工事費未払い問題です。その被害総額は推計10億円以上に達するとされています。孫請けやひ孫請けとして万博の工事に携わった多くの中小企業が、正当な代金を受け取れずに苦境に立たされています。これらの企業は、「日本の名誉のため」と国際イベントへの貢献を信じて仕事を引き受けたにもかかわらず、その努力が報われない現状に直面しているのです。

大阪・関西万博閉幕日のフラッグパレードに出席する吉村洋文大阪府知事大阪・関西万博閉幕日のフラッグパレードに出席する吉村洋文大阪府知事

「国のため」の思いが裏目に:SEIKEN社の事例

アメリカ館の壁内装仕上げ工事を三次下請けとして担当した株式会社SEIKEN(千葉県市川市)の顧問、岸田宗士郎氏はその実情を語ります。「日本が主体となる国際イベントだから、オファーが来た以上は『日本の名誉』のためにもやるしかない、という思いで引き受けました」。しかし、最終的な総受注費約1億円のうち、追加変更費用として約3000万円が未回収のままとなっています。これは、二次下請けだった有限会社ネオ・スペースが今年5月に破産申立てを行ったことが原因です。

SEIKEN社が工事の打診を受けたのは昨年の秋頃。当初、「施工は8割終わっている」と説明を受けていましたが、実際に現場に入ると、わずか1割しか進んでおらず、電気設備工事すら終わっていない状況に衝撃を受けました。施工には順序があるため、壁の内装に取りかかれる状態ではなかったにもかかわらず、「人を出してくれ」という要請に応じ職人を送った結果、仕事が進まないまま人件費や旅費が「追加変更費用」として膨らんでいきました。

横行する「口約束」:建設業法違反の実態

岸田氏によると、本来であれば基本契約から追加変更契約まで書面で交わされるべきですが、「緊急だから」という理由で口約束を信頼せざるを得ない状況だったといいます。一度は「これ以上は人が出せない」と断ったものの、ネオ・スペースや一次下請けの会社から「必ず追加費用は支払うから」と言われ、従うしかなかったと明かしています。

さらに問題なのは、元請けのESグローバル・ジャパン株式会社や一次下請け、そして二次下請けのネオ・スペースとの間で、正式な契約書が一つも存在しなかったことが後に判明した点です。建設業法では書面契約が義務付けられているにもかかわらず、万博の現場では「開催ありき」という緊急性を理由に、口約束が横行していた実態が浮き彫りになりました。

大阪・関西万博が掲げた「未来社会」の実現という理想の裏側で、日本のものづくりを支える中小企業が理不尽な状況に置かれ、その存続が脅かされているこの問題は、国際イベントにおける責任と倫理のあり方を問い直すものです。

参照:Source link