日中関係の緊張が「パンダ外交」に及ぼす影響:上野動物園の双子パンダの行方

日中間の緊張が高まる中、日本のジャイアントパンダの去就が注目されています。中国北京市共産党委員会の機関紙「北京日報」電子版は11月20日、日中関係が改善されない場合、日本は「全国からパンダがいなくなる状況に直面するだろう」と報じました。現在、東京の上野動物園で飼育されている双子のジャイアントパンダ、シャオシャオとレイレイは来年2月に中国への返還期限を迎えるため、この報道は日本国内に大きな波紋を広げています。

日中関係の悪化が示唆するパンダ返還の危機

北京日報の報道は、もしシャオシャオとレイレイが中国に返還され、かつ新たなパンダが貸与されなければ、日本からジャイアントパンダが姿を消すというシナリオを示唆しています。同紙が取材した日本研究の専門家は、「中日間の緊張が続けば、中国が日本に新たなパンダを貸与することは恐らくないだろう」と語っています。また、中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」傘下のネットメディア「人民網」日本語版も同日、ほぼ同様の内容の記事を掲載し、この問題の深刻さを裏付けました。

高市早苗氏の発言と中国の対抗措置

この緊張の背景には、高市早苗首相が11月7日の衆院予算委員会で行った発言があります。高市首相は、中国が台湾の海上封鎖を実施した場合、「存立危機事態になりうる」との見解を示しました。この発言に対し、中国は猛反発し、観光自粛の呼びかけや日本人アーティストによる中国公演の中止、経済・文化交流イベントのキャンセルなど、様々な対抗措置を発表しています。その一環として、中国は「パンダの引き上げ」をちらつかせ、日本への圧力を強めているとみられています。

上野動物園で飼育されているパンダ、シャンシャンの写真上野動物園で飼育されているパンダ、シャンシャンの写真

パンダ外交:世論の二分化と歴史的背景

こうした状況の中、日本では「パンダは引き続き貸与されるべきか、それともいなくても構わないのか」という問題について、ネット世論が真っ二つに分かれています。

「パンダ貸与継続」を望む声

SNS上では、「修学旅行でパンダが見れなくなりそうで悲しい」「パンダのためにも早く謝れ、高市早苗氏」「日本からジャイアントパンダが居なくなる事態だけは避けたい」といった、パンダの継続的な飼育を望む声が多く見られます。これらの意見は、パンダがもたらす癒しや動物園の魅力を失うことへの懸念を反映しています。

「パンダ不要」を訴える声

一方で、「パンダは好きだけど、動物園にいなくてもいいでしょ」「百害あって一利なしの代表格」「パンダ大好きだからこそもう外交に使われたくない」といった、パンダ外交に疑問を呈する声も少なくありません。これらの意見は、パンダが政治的に利用される現状への批判や、外交における過度な依存を避けたいという思いが込められています。

冷戦時代から続くパンダの政治利用

「パンダ外交」という言葉が存在することからも分かるように、中国共産党はパンダを世界各国に贈ることで、長年にわたり政治的に利用してきました。冷戦時代には、中国は外交上の「武器」として旧ソ連、北朝鮮、アメリカなどに20頭以上のパンダを贈呈しています。

ODAとパンダ外交の意外な関係

日本に初めてパンダがやってきたのは1972年10月、日中国交回復を記念して「カンカン」と「ランラン」が上野動物園に贈られたのが始まりです。この出来事自体が、日中関係の改善という政治的背景を持つものでした。さらに、1980年代には「ホアンホアン」や「フェイフェイ」が贈られましたが、これは日本の対中ODA(政府開発援助)が1979年に開始されたことが大きな影響を与えていると指摘されています。

現在の局面では、高市首相の発言を問題視する中国が、日本の国内世論にダメージを与える目的でパンダの引き揚げを示唆しています。しかし、過去には、中国側が日本との関係修復を図るために「パンダカード」を切ることもありました。

日中関係の複雑さが、愛らしいジャイアントパンダたちの運命にまで影響を及ぼすという状況は、両国間の深い相互依存と政治的駆け引きの一端を浮き彫りにしています。パンダたちの今後の行方は、単なる動物の移動に留まらず、今後の日中関係の動向を示す象徴的な指標となるでしょう。


参考文献

  • 北京日報電子版 (2025年11月20日).
  • 人民網日本語版の記事 (2025年11月20日).
  • Yahoo!ニュース (2025年12月3日).