藤本タツキ『ルックバック』実写映画化に是枝裕和監督起用も募るファンの不安:「やる意味ある?」の声も

2021年7月に「少年ジャンプ+」で公開され、瞬く間に大きな話題を呼んだ藤本タツキ氏による傑作読み切り漫画『ルックバック』が、2026年に初の作品実写映画として公開されることが決定しました。この記念すべきプロジェクトのメガホンを取るのは、『万引き家族』や『怪物』で世界的な評価を得た是枝裕和監督です。是枝監督はこれまでも『海街diary』や『舞妓さんちのまかないさん』など、数々の漫画原作作品を手がけ、原作への深い敬意と丁寧な描写で多くのファンを納得させてきました。しかし、その豊富な実績と厚い信頼にもかかわらず、『ルックバック』の実写化発表には、一部のファンの間で「やる意味ある?」といった不安の声が上がっています。

公開された実写版「ルックバック」の劇中カット公開された実写版「ルックバック」の劇中カット

なぜ『ルックバック』の実写化は不安視されるのか?その作品の深い魅力

『ルックバック』は、漫画にひたむきに向き合う少女・藤野と、不登校の同級生・京本という2人の人生を丹念に描いた長編読み切り作品です。この物語が多くの人々の心を強く揺さぶったのはなぜでしょうか。まずは、その胸を打つあらすじを振り返ってみましょう。

物語は小学4年生の藤野から始まります。彼女は学校新聞で毎週4コマ漫画を連載し、クラスメイトからの賞賛を受け、自身の画力に絶対的な自信を持っていました。しかし、ある日、不登校の同級生・京本の描いた絵が掲載されたことで、藤野の人生は一変します。周囲はこぞって京本の圧倒的な画力に驚き、藤野の絵を「フツー」だと評価したのです。

「絵がフツー」と言われた悔しさをバネに、藤野は画力向上をひたむきに努力し続けました。にもかかわらず、京本との画力の差は埋まらず、一度は漫画を描くことを挫折してしまいます。そんな中、小学校の卒業式を迎えます。京本の家に卒業証書を届けに行った藤野は、初めて京本と邂逅し、自分が天才だと思っていた相手が、自分よりもはるかに努力を重ねていた事実を知ります。そして、京本から「漫画のファンです」と告げられたことで、藤野は再びペンを握ることを決意します。

それからの2人は、共に漫画を作りながら輝かしい青春の日々を送りますが、ある日、すべてを打ち砕く衝撃的な事件が起きる──というのが本作のストーリーです。

この作品を読んだ多くの人々は、読了後に「とんでもない漫画を読んでしまった……」という強い印象を受けたことでしょう。ひたむきに漫画と向き合い続けた藤野と京本の人生、そして二人の間に起こる出来事に、ただただ「圧倒」される体験を与えます。しかし、本作の魅力は、藤本タツキの圧倒的な才能を浴びられることだけではありません。天才に打ちのめされた経験、「絵 上手くなり方」で検索してデッサンの勉強をした記憶、周囲から「もう漫画なんて卒業しなよ」と言われて流されそうになった瞬間、自分の努力の結果を誰かに褒められたのが嬉しくて飛び跳ねながら帰った日……。こうした「誰もが人生で経験したことのある感情」が豊かに描かれているからこそ、これほど多くの人々の心に深く突き刺さったのです。

結論:原作の重さと実写化への複雑な期待

『ルックバック』は、その普遍的なテーマと藤本タツキならではの繊細な心理描写によって、読者に忘れがたい感動と衝撃を与え続ける作品です。是枝裕和監督という世界的な巨匠が実写化を手掛けることは、通常であれば大きな期待を集めるものですが、原作が持つあまりにも深く個人的な感情や、漫画という表現形式だからこそ伝わる独特の空気感を、実写でいかに再現できるのかという点で、ファンの間には複雑な不安が広がっているのかもしれません。監督の手腕に期待しつつも、この傑作がどのような形で新たな命を吹き込まれるのか、その行方が注目されます。