【ワシントン=黒瀬悦成、ベイルート=佐藤貴生】イランは8日未明(日本時間同日午前)、米軍が駐留するイラク中西部アサド空軍基地と北部アルビル基地を、イラン領内から発射した少なくとも十数発の弾道ミサイルで攻撃した。イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が米軍に殺害されたことへの報復。米軍将兵の被害は確認されていないが、報復合戦にエスカレートする恐れがある。両国の緊張は、域内各国を巻き込んだ衝突につながりかねない危機に発展した。
トランプ米大統領は米東部時間8日午前(日本時間同日夜から9日未明)に声明を発表する予定だ。
イラン側はミサイル発射後、戦争は望んでいないとの姿勢を強調。ザリフ外相はツイッターで「均衡のとれた自衛措置を実行し、終了した」と述べた。
ただ、革命防衛隊幹部は今回の攻撃を「第1段階」だとしており、報復や挑発行為が続く可能性もある。ロウハニ大統領の顧問は、米国がさらにイラン側を攻撃すれば「地域で全面戦争が起きるだろう」とツイートし、米国を牽制(けんせい)した。
米国防総省などによると、ミサイル攻撃はソレイマニ司令官の葬儀が終了した直後とされる、イラク時間8日午前1時半ごろに始まった。イラン領内からのミサイル攻撃は異例だ。
イランは、「殉教者ソレイマニ」と名付けた今回の作戦で、射程約500キロの国産短距離弾道ミサイル「ファテフ313」などを発射。イラン側は米兵ら80人を殺害し、軍用ヘリなどを破壊したと主張したが、根拠は明らかにしていない。イラク当局者は22発が撃ち込まれたとしている。
イランの最高指導者ハメネイ師は8日のテレビ演説で、「米国は中東から去るべきだ」と主張。革命防衛隊は、米国に出撃拠点を提供する国にも報復すると警告し、米国の後ろ盾を受けるイスラエルを攻撃対象とする可能性も示唆した。
一方、トランプ氏は7日、ソレイマニ司令官は米権益などへの「大規模な攻撃を計画していた」ため、殺害は正当だと主張した。エスパー国防長官やポンペオ国務長官らは同日、野党・民主党から司令官殺害の必然性などに関し批判が強まっているのを受け、民主、共和両党の議会指導部と情報特別委員会の筆頭議員ら8人に機密情報を含む攻撃の詳細を説明した。
トランプ政権は2018年5月、イランの核開発を抑制する核合意からの離脱を宣言。経済制裁を復活させ、ミサイル開発や武装勢力支援の停止などを含む新たな合意を結ぶよう同国への圧力を強めてきた。これに対してイランは核合意の履行義務を段階的に停止し緊張が高まっていた。