日本銀行は21日の金融政策決定会合後に公表した「展望リポート」で、令和元~3年度の成長率見通しを上方修正した。米中協議の軟着陸で為替相場は円安に振れ株価も回復するなど市場環境は改善しており、脱“非常時”の政策運営が今後の課題になりそうだ。
黒田東彦総裁は記者会見で、「消費の減少は一時的なもの。増加基調は維持されている」と述べ、昨年10月の消費税増税の影響は限定的だとの見方を示した。
増税後、経済指標では個人消費や企業の生産活動の停滞が目立つ。ただ、今後は1~3月にも消費が底を打ち、高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムの商用化などで生産も活発化するとの見方が強い。令和2年度に入れば政府の経済対策による公共投資の効果も出てくるため、日銀は今年後半に向けて景気が回復するシナリオを描く。
一方、日銀は昨年7月以降、海外経済の減速を受けて、物価上昇の勢いが損なわれる恐れが高まれば「躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる」と公表文に明記し、市場の円高圧力を牽制(けんせい)してきた。海外経済の下振れリスクは依然残るが、足元の円安傾向で口先緩和を続ける必要性は薄れており、1~3月の国内総生産(GDP)で回復シナリオが裏付けられるかを見極めて文言修正を探る方向だ。
平常の体制に戻れば、金融機関から資金を預かる際に手数料を課すマイナス金利政策の解消に向けた期待感も高まる。金融機関の収益力悪化など政策の副作用が表面化しているからだ。
スウェーデンの中央銀行は昨年12月、主要政策金利をマイナス0・25%から0%に上げ、約5年続けたマイナス金利政策を終わらせた。金利を継続的に上げる「出口戦略」ではなく、ゼロ金利は維持しつつ副作用対応としてマイナス金利を手じまいする選択だ。政策解消の目途が立たない日銀や欧州中央銀行(ECB)への問題提起ともいえる。
黒田氏は「大きな副作用が起きているとは考えていない」とマイナス金利を当面続ける意向を示したが、解消に向けた機運が今後高まってくる可能性がある。(田辺裕晶)