肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの拡大で、意外なIT技術が注目されている。眼鏡型ウェアラブル端末「スマートグラス」の生産現場への導入だ。現地指導役の駐在員らが中国に戻れない日本企業から、現地の作業状況が遠隔共有できるサービスへの問い合わせが増えているという。工場のハイテク化が、思わぬ形で進展する可能性が出てきた。
「中国に工場を持つ企業からの問い合わせが続き、商談も既に始まった」。日本企業と取引が多いという中国ITサービス大手の子会社、ハイシンク創研(京都市)の広報担当者はこう明かす。同社はスマートグラスと作業タスク管理、遠隔支援のパッケージサービスを開発し、12日に本格発売。すると、中国渡航が正常化しないうちに現地が生産再開に動き出す中、早々に導入を検討する企業が出てきたという。
映像を無線で送信・投影するスマートグラスは、工場の作業者の視点を遠隔地のスタッフと共有したり、スタッフが作業者に画像・映像付きで指示したりできる。ハイシンク創研はさらに、グラスと企業側システムを直結できる機能を開発。作業マニュアル映像を映しての正確な指導や、作業状況を画像化した進(しん)捗(ちょく)管理、社内ネットワークに制限したセキュリティー確保などを可能にした。
こうした機能が、中国工場の再開・運営を遠隔管理する必要がある企業から注目を集めたようだ。4年前設立のハイシンク創研は元シャープの技術者も在籍し、日本企業との取引も多いという。
人手不足や高齢化も進む中で、従来は対人指導が必須だった熟練技能伝承の課題解決策になる可能性もある。同社関係者は、「(あらゆるものが通信で結ばれる)モノのインターネット(IoT)化が、人的作業でも可能になる」と強調。緊急時対応だけでなく将来性もあるとしている。(今村義丈)