還付金詐欺の標的が、従来の70代から60代に移りつつある-。こんな傾向が埼玉県警の集計で明らかになった。70代以上の人が被害に遭う詐欺事件が続発して金融機関や警察が警戒を強めた結果、詐欺グループがターゲットを変えているとみられ、県警は注意を呼びかけている。
県警によると、還付金詐欺の認知件数のうち60代が被害者となったケースの割合は、近年、目立って増えている。平成29年にはわずか32・5%だったが、30年に63・6%へと急増し、昨年も62・8%を占めた。29年は58・4%だった70代の被害が、昨年は21・9%に減少したのとは対照的だ。
昨年11月には、同県寄居町の自営業の60代男性が、町職員を名乗る男からの「保険料の還付金がある」との電話を信じ込み、指示に従って現金自動預払機(ATM)を操作し、67万円をだまし取られた。
60代が狙われるのはなぜか。
複数の捜査関係者が異口同音に指摘するのは、金融機関側が警戒を強めた結果、70代以上を狙うことが難しくなっている状況だ。
多くの金融機関は29年ごろから、70代以上の高齢者による引き出しや振り込みの額などの制限を強化した。警戒していた職員が、高齢者がだまされていると見抜いて被害を未然に防いだケースも多い。
一方、60代の場合はこうした制限は緩い上、金融機関側の警戒感も比較的乏しいのが実相だ。
加えて、社会の一線を退いて久しい人が多い70代に比べると、60代には「現役」という自負心が強く、付け入られる隙を生んでいるという。ある捜査関係者は「60代の人は企業などで仕事をしていることも多く、『自分は引っかからない』という思い込みを抱きやすい」と懸念する。
県警は、特殊詐欺グループが60代の名簿を入手して標的を物色しているケースもあるとみており、「公的機関はATMでの還付は行わない。怪しい電話があったら通報してほしい」と促している。
(内田優作)
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還付金詐欺 公的機関の職員を装い、「還付金がある」という名目でATMを操作させ、口座に金を振り込ませる詐欺の手口。詐欺グループ内で金品を受け取る役を担う「受け子」が不要なため、検挙の端緒が得られにくい傾向がある。