平成23年3月11日に発生した東日本大震災による津波で、制御不能となった福島第1原子力発電所の施設内に残った作業員50人余を、海外メディアは「Fukushima50(フクシマフィフティ)」と呼び、たたえた。この呼称を冠した映画が6日、全国公開される。若松節朗(せつろう)監督(70)が、作品への思いを語った。(水沼啓子)
ジャーナリスト、門田隆将(かどた・りゅうしょう)のノンフィクション「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫)が原作で、7年ほど前に映画化の構想が持ち上がった。約5年前に脚本作業が始まったものの一時、中断した時期もあったという。
「社会性のある題材を映画化するとき、みな躊躇(ちゅうちょ)する。ただ、実際にあった話を、映画を通して世の中に伝えるのが映画人の責任でもあるのかなと思った」という。
本作で描かれているのは、地震発生から不眠不休で原発と闘った5日間だ。一昨年秋に撮影が始まり、昨年4月にクランクアップした。シナリオの順通りに撮影する「順撮り」で、登場人物が日ごとにやつれていく様子がリアルに再現された。
「ぼくが現場でいちばん望んだのは寒いときに撮影すること、それから出演者のひげがだんだん伸びて顔が汚くなり、疲労感が重なっていくことだった。こちらの意図した通りになり、すごい」と満足した様子。
冒頭には地震や津波のシーンも登場する。「福島の人たちはこういうものを見るとフラッシュバックしてつらいと思う。ただ、そのつらさを乗り越えたところに作業員たちの人間ドラマがある。そこには、日本人の持つ美学つまり自己犠牲とエンジニアたちの誇りが描かれている」と話す。
最後のシーンでは、福島県富岡町の帰還困難区域に咲く満開の桜並木が映し出される。「せっかく美しい桜が咲いているのに、誰も見ることができないと思うと複雑だった。それは、この先もずっと続く。ラストは『何も解決していない』というメッセージを発する最高のシーンだ」
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6日から東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪ステーションシティシネマなどで全国公開。
【あらすじ】
福島第1原発1・2号機担当の当直長、伊崎利夫(佐藤浩市)は、全電源が落ちた中央制御室内に約50人の地元出身の作業員らととどまり、決死の覚悟で水素爆発を防ぐため奮闘する。一方、所長の吉田昌郎(渡辺謙)は緊急時対策室で、刻一刻と悪化する現場の状況を東電本店に報告しながら、最悪の事態を阻止すべく奔走する。