【経済インサイド】トヨタを駆り立てる新型コロナ リーマンの再来防げるか





インターネットで記者会見する日本自動車工業会の豊田章男会長

 新型コロナウイルス感染拡大が世界経済に激震をもたらす中、トヨタ自動車が自動車メーカーの枠を超えた感染拡大防止策に乗り出している。トヨタの動きの裏側にあるのは「トヨタショック」と呼ばれた平成20年のリーマン・ショック時の業績悪化で、雇用にまで衝撃をもたらした経験への反省だ。今回の新型コロナ問題では生産体制への直接的な影響も受けているうえ、人材確保が何よりも重要な変革期にあるとあって危機感は強い。ただし異業種を含めた他社との連携への布石にもみえる動きからは、混乱の先も見据えた戦略も垣間見える。

戦時下の意識

 「戦争で人も減って工場も失ったトヨタは生き延びていくため、作れるものは何でも作ったそうだ」

 豊田章男社長は4月10日、日本自動車工業会(自工会)会長としてのオンライン記者会見で、あえて業界代表の立場を超えて自社の歴史に言及した。

 トヨタは第二次大戦後、鍋やフライパンを作り、工場周辺ではイモや麦まで栽培したという。今回の新型コロナへの対応は戦災に匹敵する難局になり得る、やれることは何でもやる-。豊田氏の言葉からはそんな危機感がにじんだ。

 これに先立つ7日、トヨタは総合的な医療現場支援策を発表していた。特にトヨタならではの取り組みといえるのが、効率的な生産手法を追求した「トヨタ生産方式」(TPS)の応用で、人工呼吸器など医療機器メーカーの増産を側面支援することだ。

 TPSの特徴の一つとされるのは、新たに専用ラインを作るのではなく、最小限の設備や工具を既存の生産ラインにつけ加えるだけで生産能力を強化する手法だ。感染者の増加ペースとのスピード勝負を迫られる中、トヨタが強みとする柔軟な生産態勢作りを医療現場の対応力強化につなげることを狙う。

苦い経験

 トヨタはかつての経済危機で苦い経験をしている。20年9月のリーマン・ショックで落ち込んだ日本経済を揺るがした「トヨタショック」だ。

 トヨタは21年3月期に初の連結営業赤字(4610億円)に転落した。トヨタの急減速がもたらす影響は大きく、自動車総連による主要約100労働組合の調査では、20年6月時点で65万3000人いた従業員は、期間従業員や派遣社員などがほぼ半減したことで1年後、58万2000人にまで落ち込んだ。

 他産業も含めた「派遣切り」「雇い止め」は年末の「年越し派遣村」といった社会問題にもつながり、自動車産業も批判の的になった。21年1~3月期の実質国内総生産(GDP)の下げ幅はマイナス4%超。トヨタが期間従業員の募集を再開したのは21年10月だった。

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