「働き方改革」が新たな局面を迎えている。新型コロナウイルスの感染拡大で、外出自粛が求められるなか、「テレワーク」や「リモートワーク」という在宅での働き方が急拡大し、テレビ会議システムやクラウドサービスなどのツールも急速に普及している。時間を有効活用できる在宅勤務は、生産性の向上やワーク・ライフ・バランスの実現などメリットは多い一方で、自宅で一人で働くという就業スタイルに戸惑う人は少なくない。この危機を働き方のイノベーション(革新)につなげる好機とすることができるのか。先進的な企業の取り組みや識者の提言などを通じて、その方策を探る。
初回はソフトウエアやクラウドサービスを手掛けるサイボウズの社長を務め、3度の育児休暇を取得するなど働き方改革を早くから実践する青野慶久社長にオンラインで話を聞いた。
━━3月から全社員に原則在宅勤務を求めた。テレワークの評価は
「予想以上に機能しているし、むしろ(オフィスワークよりも)円滑になることも見つかった。例えば、東京オフィスで開いていた経営会議は以前から全国の拠点がオンライン形式で参加できたが、(室内の)マイクが遠いと発言が聞き取りにくかったり、遅延したりする懸念があった。だが、在宅勤務で全員がテレビ会議に切り替えると、(個々人の)マイクが小さな声も拾うし、対面で話しているのと変わらない。物理的な限界を超えられると実感した」
━━感染予防という緊急措置から定着に向かうか
「(テレビ会議など)新しいツールを使いこなすことで生産性が向上するうえ、全員が在宅勤務になればオフィスの家賃を抑えられるし、災害など非常時も働き続けることが可能になる。現在はウイルス対策だが、近年は大規模な台風など災害が相次いでいるのでBCP(事業継続計画)としてもテレワーク環境の確保が企業存続のベースライン(最低線)になると思う」
「ただ、制度だけをつくっても定着はしない。トップがどんどん試してみようと旗を振り、企業風土も改革しなくてはいけない。そして働く環境を支えるツール(道具)が必要になる。テレワークを始めようとしても、自宅にパソコンがなければ難しいし、(情報漏洩対策など)セキュリティーも重要になる。制度、風土、ツールを並行して整備するべきだ」
━━在宅勤務は効率が落ちる懸念もあるが、生産性を維持する方法は
「徹底した情報共有だ。例えば、私に保育園から子どもが発熱したと連絡があれば、迎えに行き病院に直行する可能性もある。その時、仕事のスケジュールや進捗(しんちょく)状況が分からなければ、ほかの社員が引き継げず業務が滞る。だから、プライバシーなどに配慮しつつ、スケジュールはなるべく開示している。また、メールは個人宛のアドレスを使わず、部署ごとに代表メールで管理している。働き方が多様化するほど、徹底的にお互いの仕事の情報を開示しあう必要がある。顧客や営業先の情報を共有するのは抵抗があるかもしれないが、一歩ずつ進めるべきだ」
昭和46年、愛媛県出身。大阪大工学部卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て平成9年にサイボウズを創業し、副社長に就任。17年から現職に就き、働き方改革を進める。