赤信号手前で「惰性運転」するドライバー心理とは? 交通心理士が解説

数百メートル先の信号が赤に変わった途端、アクセルから足を離し、そのままスーッと惰性で信号手前まで進む運転を見かけることは少なくありません。後続車は、そのペースに合わせることで、時に「なぜ急ブレーキしないのだろう」「もう少しスムーズに進めないか」といった「モヤモヤ」とした気持ちになることもあります。この一見、非効率にも見える運転行動は、単に「面倒くさいから」といった理由からなのでしょうか?それとも、ドライバー自身の内部で働く別の心理や意図があるのでしょうか。交通心理士の見解を探ります。

ドライバーの「合理的選択」としての惰性運転

[赤信号手前で「惰性運転」するドライバー心理とは? 交通心理士が解説赤信号で停車するため惰性走行する自動車。ドライバーの燃費運転心理を考える。]

このような惰性運転について、交通心理士で近畿大学理工学部の島崎敢准教授は、ドライバー自身の内部で働く合理的選択である可能性を指摘します。具体的には、「少しでも燃費を良くしたい」「無駄なブレーキ操作を減らして車両への負担を軽減したい」といった意識が、この行動の背景にあると推測されるとのこと。加減速の少ない運転は、確かに燃費効率を高め、タイヤやブレーキパッドの消耗を抑える効果が期待できます。そのため、運転している本人にとっては、経済的・物理的に合理的な判断に基づいた行動と言える側面があるのです。

個人の最適が全体の非効率に繋がる可能性

しかし、このような運転が常に推奨されるわけではありません。特に交通量が多い状況では、交通の流れ全体を滞らせる可能性があります。島崎先生は、後続車が減速を余儀なくされ、その加減速が連鎖的に後方へ波及し、結果として渋滞を引き起こす事態も起こり得ると警鐘を鳴らします。一台の車にとっては燃費運転やエコ運転に見えても、全体として見た場合の交通容量の有効活用という点では無視できない影響を与えることがあるのです。実際、周囲にどの程度影響するかは交通量車間距離、信号の位置などによっても変わるため一概には言えませんが、「一人の最適が全体の非効率になることがある」という視点が重要だと語ります。

島崎先生は、この惰性運転が「落ち着いた丁寧な運転」や「無駄な加速を避けて環境にやさしく」といったドライバーのポジティブな意識から来ている場合もあり、その運転心理自体を非難すべきものではないと述べます。重要なのは、特に交通量の多い都市部などの状況において、周囲の交通の流れや他のドライバーへの影響を意識することです。自身の燃費のためだけでなく、全体の円滑な交通のために、必要に応じて惰性運転を控える判断も、現代社会における重要な運転マナーの一つと言えるでしょう。