日本の出生数、過去最低を更新 その背景にある「子どもは贅沢品」意識と経済的不安

厚生労働省の発表によると、2024年の日本の出生数は68万6061人と過去最低を記録し、前年から5.7%減少しました。女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率も1.15となり、前年比0.05ポイント減となりました。少子化が加速する日本社会において、出生数・出生率低下の根本的な原因は何なのでしょうか。子育て中の母親や、これから出産を考える女性たちの声に耳を傾けると、現代社会が抱える深刻な問題点が浮かび上がってきます。特に、「子どもを持つことは経済的に厳しい」「贅沢品のように感じる」といった声が多く聞かれました。

最新統計が示す少子化の現状

2024年の日本の出生数は68万6061人で、比較可能な1899年以降で過去最低を更新しました。合計特殊出生率も1.15まで低下し、国の目標とする「希望出生率1.8」とはかけ離れた水準となっています。この統計は、日本の社会構造や人々の価値観が大きく変化していることを示唆しています。

子育て世代を悩ませる経済的重圧

出生率低下の最大の要因として、子育て世代から圧倒的に多く聞かれたのは経済的な不安です。物価高騰や住宅ローンの変動金利上昇など、家計への負担増が懸念されています。

「もう一人を望めない」母親の声

都内在住の30代後半の女性Aさんは、2歳の子どもが一人いますが、「このご時世でもうひとり出産しようとは思えない」と話します。「私立の小中学校に行かせたいと考えており、家計を考えると一人っ子で限界。経済的にも精神的にも、子どもがいないか一人っ子の方が幸せだと感じます」と、子どもを持つことが経済的に余裕のある層だけの「贅沢」のように感じている現状を語りました。

政府の子育て支援策への疑問

こども家庭庁の政策に対し、疑問の声も上がっています。神奈川県在住で3歳と7歳の子を持つ40代の女性Nさんは、出産アドバイザーに9億円をかけるという政策に触れ、「それよりも出産のたびに300万円、もしくは3人出産で1000万円などの現金を母親に配ってほしい。そのほうがよっぽど産む人は増えると思います」と直接的な経済支援を求めました。埼玉県在住の5歳の子を持つ40代の女性Yさんも、出産育児一時金の増額は評価しつつも、「産んで終わりではなく、産んでからが子育ての本番。毎月1万円(3歳までは1万5000円)の児童手当ではなく、出産した女性には毎月10万円程度の子育て手当をもらいたい」と、育児期間を通じた継続的かつ手厚い経済支援の必要性を訴えました。

未婚女性が抱える将来不安

独身女性の中にも、将来の結婚や出産に対して経済的な不安から踏み出せない人がいます。

非正規雇用の壁

都内在住の20代女性は、「結婚もしたいし、子どもも欲しいが、非正規で働いており収入が不安定で子どもは夢のまた夢。結婚、出産、育児は富裕層だけの楽しみのように感じています」と、雇用形態や収入の不安定さが将来設計の大きな壁になっている現状を吐露しました。
非正規雇用などで将来の結婚や出産に不安を抱える20代独身女性のイメージ非正規雇用などで将来の結婚や出産に不安を抱える20代独身女性のイメージ

東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授は、女性の雇用環境について「非正規従業員は全労働者の約4割、女性に限れば5割を占める。その人たちの不安要素を取り除く施策が必要であり、待遇の底上げや正規・非正規間の格差是正を進めなければならない」と指摘しています。

専門家の視点と教育費の問題

経済的不安に加え、子どもの教育費も大きな課題です。

教育費支援の不足

山口教授は、日本の公財政教育支出が対GDP比3.7%と、OECD平均の4.9%を下回っている現状を挙げ、「教育支援は不足していると言える」と述べています。教育費負担の軽減が出生率に与える直接的な効果は限定的であるとしつつも、「次世代の人材育成を通じ、より豊かで活力のある社会を築くことは子育てに希望が持てる社会につながるのではないか」と、長期的な視点での教育投資の重要性を強調しました。
日本で過去最低を記録した出生数と「子どもは贅沢品」と感じる経済的背景日本で過去最低を記録した出生数と「子どもは贅沢品」と感じる経済的背景

40歳で出産し現在4歳の子どもを持つ女性も、「娘が二十歳になったとき私は還暦を超えている。一人っ子だと心細いだろうから本当はもう一人産みたいが、体力面での不安に加え、二人を大学まで行かせる教育費を考えると踏み切れない」と、年齢に伴う体力的な問題と莫大な教育費への懸念を同時に抱えていることを明かしました。

結論:複合的な要因への対応が不可欠

日本の少子化は、単一の要因ではなく、経済的不安、雇用・収入の不安定さ、子育て・教育に対する公的支援への不満、そして体力的な懸念など、様々な要因が複雑に絡み合って進行しています。「子どもは贅沢品」という意識が広がる背景には、現在の経済・社会構造が深く関わっています。出生率の低下を食い止め、安心して子どもを産み育てられる社会を実現するためには、個別の支援策の拡充に加え、雇用環境の改善や教育費負担の軽減など、より包括的で根本的な社会構造への対策が不可欠と言えるでしょう。

参照元

https://news.yahoo.co.jp/articles/ec2460a9ebfa6a1c906adc41691a3d6c144b3c31