国民生活基礎調査の最新結果(2023年)によると、生活が苦しいと感じる国民の割合が前年から大きく増加しました。「生活が大変苦しい」が26.5%、「やや苦しい」が33.1%となり、合わせて約60%近くに達しています。この「生活苦」を感じる比率は、給与が過去最高水準だった1990年代半ばには30%台でしたが、給与の減少と共に上昇し、2015年には60%を超えました。その後、給与の上昇に伴い51%まで低下しましたが、2022年以降のインフレーションによる実質手取りの減少を反映し、再び60%弱の水準に戻っています。特に児童のいる世帯では、この割合が65%に達しており、子育て世代への影響が大きいことが伺えます。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、エネルギー価格と電気料金の高騰を引き起こし、食料品価格などの上昇にもつながりました。これは、賃上げが物価上昇に追いつかない状況を生み出し、多くの国民が生活の厳しさを感じる一因となっています。エネルギー価格や電力価格の引き下げ、そして安定供給は、国民生活を守る上で喫緊の課題です。政府は断続的に補助金を投入していますが、これらはあくまで一時的な対策に過ぎません。
エネルギー価格高騰の背景:ロシアのウクライナ侵攻
ロシアのウクライナ侵攻後、日本を含む主要先進国はロシアに経済制裁を課しました。ロシアは侵攻前、世界最大の天然ガス、原油・石油製品輸出国であり、世界第3位の石炭輸出国であったため、これらの制裁は化石燃料の供給バランスを大きく崩し、国際市場での価格を大幅に押し上げました。特に欧州市場の天然ガス価格は、2022年秋のピーク時にコロナ禍以前の約10倍にまで急騰し、燃料用石炭価格も史上最高値を更新しました。この高騰は欧州の電気料金や都市ガス料金に直接影響を与え、石炭火力発電の比率が高い日本でも電気料金の大幅な上昇を招きました。
物価上昇への波及と海外の状況
エネルギー価格の上昇は、商品の製造、輸送、販売といったあらゆる段階のコストに影響を及ぼします。これにより、多くの製品やサービスの価格が押し上げられ、広範な物価上昇(インフレーション)を招きました。主要7カ国(G7)の消費者物価は2022年から顕著な上昇を見せ、その後上昇率はやや落ち着いたものの、物価自体が大きく下がる状況には至っていません。対照的に、中国はロシアへの制裁に加わらず、安価な化石燃料の輸入を継続したことで、エネルギー価格やガソリン価格の上昇が抑えられ、インフレを経験していません。これは、エネルギー供給の安定性と価格が国民生活に与える影響の大きさを示唆しています。
東京都のエネルギー環境政策とその課題
このような状況下で、東京都は2025年度予算において、エネルギー環境政策に多額の予算を投じる方針を示しています。都民の生活苦が深刻化する中で、東京都のエネルギー政策が実際の生活改善にどれだけ寄与するのかが問われています。
東京都議会議員選挙での街頭演説中、エネルギー政策について語る小池百合子東京都知事
報道によると、東京都のエネルギー関連政策の一部は、平均的な都民の生活費負担軽減には繋がりにくく、むしろ高所得者層への支援策となっている可能性が指摘されています。多額の税金が投入されるエネルギー環境政策が、生活苦にあえぐ都民のために真に有効活用されているのか、それとも税金の無駄遣いになっていないか、その実効性と透明性が厳しく問われるべきです。
国民の生活苦は、エネルギー価格の高騰とそれに伴う物価上昇が大きな要因の一つです。政府による補助金は短期的な対策であり、中長期的なエネルギー価格の安定と供給確保が不可欠です。東京都が進めるエネルギー環境政策が、都民全体の生活改善に資するものであるか、その効果と対象について、より詳細な検証と議論が求められています。