猛暑・コロナ禍・施設老朽化…学校のプール授業中止で「泳げない子ども」が増加、水泳能力低下が顕著に

近年、記録的な猛暑により学校での水泳授業が中止となるケースが全国的に増加しています。これに伴い、和光大学体育科教育学の制野俊弘教授は、「泳げない子どもが増えている」と警鐘を鳴らしています。熱中症警戒アラートへの対応が進む一方で、プール授業の実施時期が前倒しされる傾向にあるものの、様々な要因が子どもたちの水泳機会を奪っている現状があります。水泳は単なる体育の授業ではなく、水の特性を理解し、命を守るための重要なスキルです。

学校のプールで行われる水泳の授業の様子。猛暑やコロナ禍で授業中止が増え、「泳げない子ども」増加が指摘されている。学校のプールで行われる水泳の授業の様子。猛暑やコロナ禍で授業中止が増え、「泳げない子ども」増加が指摘されている。

小学校における水泳能力の低下データ

具体的なデータからも、子どもたちの水泳能力の低下が明らかになっています。埼玉県教育委員会の「令和6年度 学校体育必携」によると、「クロールで25m以上泳げる」小学6年生の割合は、2019年度には男女ともに70%を超えていました。しかし、2023年度には女子が46.2%、男子が54.3%と大幅に減少しており、水泳能力の二極化が進んでいると考えられます。この急激な低下は、教育現場における懸念材料となっています。

日本水泳連盟からの懸念表明

このような状況に対し、日本水泳連盟も強い懸念を示しています。連盟会長は、「近年の夏季猛暑による屋外プールの稼働日数の減少や、プール施設の老朽化により、校内プール施設使用の存続が危ぶまれている」と指摘。さらに、「水の特性を体感することから始まる水泳は、体験なくして習得することは不可能である」と述べ、実際に水に触れ、泳ぐ機会の確保が不可欠であることを強調しています。

授業中止や水泳機会減少の複合的要因

制野教授は、水泳授業が中止されたり、子どもたちの水泳機会が減少したりしている背景には、猛暑以外にも複数の要因があると分析しています。

  • 高学年の児童が低学年だった時期に、新型コロナウイルスの影響でプールの授業が実施できなかったこと。
  • 教員の多忙化解消や働き方改革の一環として、水泳の授業時間自体が削減される傾向にあること。
  • 学校のプール施設の老朽化が進み、授業を民間のスイミングスクールに委託するケースが増えているが、時間や費用の確保が難しく、すべての児童が参加しにくい状況があること。
  • 児童の中には、日焼けや肌の露出を嫌がり、プールに入りたがらない子が増えていること。

これらの要因が複合的に絡み合い、子どもたちが学校で水泳を学ぶ機会が減少しているのです。

命を守る水泳教育の重要性

制野教授は、東日本大震災の津波で教え子を亡くした経験を踏まえ、水泳能力の低下は「命の問題に直結する」と強く訴えています。水に関する知識と水泳のスキルを併せ持つことは、災害時だけでなく日常生活においても自身の命を守るために極めて重要です。教授は、「『命を守る』教育の一環として、学校はプールの授業を確実に確保すべきだ」と主張。そのために、教員の研修体制の強化、効果的な指導法の開発、そして安全で快適なプール環境の整備など、学校教育全体での見直しが必要であると提言しています。

子どもたちの水泳能力低下は、猛暑やコロナ禍といった一時的な要因だけでなく、教育現場が抱える構造的な問題とも密接に関わっています。命を守るための重要なスキルをすべての子どもが習得できるよう、社会全体で水泳教育のあり方を再考し、必要な対策を講じることが求められています。

Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/497d7e5a39495adb5cd1a3d61a0adacd619fb19c