「年金があるから大丈夫」と言う一人暮らしの高齢の親。しかし貯金が300万円しかないと分かった時、子供としてはその後の生活が心配になるものです。日本の多くの家庭が直面するこの老後資金の問題について、実際の高齢者世帯の生活費や公的年金の平均受給額データをもとに検証します。本記事では、一人暮らしの高齢者における平均的な経済状況と貯金300万円が意味するものについて、公的データに基づき詳しく見ていきます。
高齢者一人暮らしの平均的な生活費
総務省統計局が発表した「家計調査(家計収支編)2024年」によると、65歳以上の単身世帯の1ヶ月あたりの平均消費支出は15万4601円です。支出の内訳を見ると、食料費が4万2973円と最も多くを占め、次いで交際費なども含むその他の消費支出が3万1624円となっています。住居費、被服費、交通・通信費、教養娯楽費は単身世帯全体より少ない傾向にある一方、保健医療費は9102円と比較的多額の支出が見られます。なお、高齢者単身世帯の持家率は85.2%と非常に高く、家賃や地代の支払いが少ない世帯が多いのが特徴です。
公的年金の平均受給額
次に、高齢者世帯の収入の柱となる公的年金について見てみましょう。厚生労働省年金局による「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、1ヶ月あたりの平均年金受給額は、厚生年金受給者の場合で14万6429円、国民年金受給者の場合で5万7584円です。ただし、個々の年金受給額は、加入していた年金制度の種類や保険料納付期間などによって大きく異なります。例えば、国民年金の場合、20歳から60歳までの40年間すべての保険料を納めた場合でも、日本年金機構によれば、令和7年度の満額は月額6万9308円となっています。
貯金300万円と国民年金で生活できるか? シミュレーション
ここまでに見た平均的な生活費と年金受給額をもとに、貯金300万円と国民年金の平均受給額(月5万7584円)で一人暮らしを続けるケースをシミュレーションしてみましょう。平均消費支出15万4601円に対し、年金収入が5万7584円の場合、毎月の不足額は15万4601円 – 5万7584円 = 9万7017円となります。貯金300万円で不足分を補うと仮定した場合、貯金は300万円 ÷ 9万7017円 ≒ 約30.92ヶ月、つまり約2年7ヶ月で尽きてしまう計算です。これは平均値を用いた単純計算であり、医療費増やインフレ、予期せぬ出費は含まれていません。
一人暮らしの高齢者の生活費と年金の不足分を補う貯金を表すイメージ
したがって、このシミュレーション結果からは、貯金300万円と国民年金のみでの長期的な生活は厳しい傾向にあり、家族の支援や生活費見直しが必要となる可能性が高いと言えます。
まとめ
総務省や厚生労働省の公的データによる分析から、一人暮らし高齢者の生活費に対し、国民年金平均受給額だけでは毎月大きな不足が生じ、貯金300万円は約2年半で尽きる計算となりました。医療費増や物価上昇リスクも考慮すると、貯金300万円は長期的な安心材料には不足しています。親御さんが安心して暮らすには、家計状況を正確に把握し、家族での支援、または生活費削減策の検討が重要です。
総務省統計局「家計調査(家計収支編)2024年」
厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
日本年金機構「令和7年度の年金額について」