千葉市中央区にあった歯科医院「高橋デンタルオフィス」(現在は閉業)の元院長、高橋仁一容疑者が詐欺の疑いで逮捕された。患者の女性から200万円をだまし取ったとされるこの事件だが、被害はこれだけにとどまらない。週刊新潮の取材に対し、重い口を開いた複数の被害者たちがその実態を告発した。これは、前編で紹介した、健康な歯を抜かれた上に治療を中断された被害男性の事例に続く、別の被害者たちの証言である。インプラント詐欺による歯科医の逮捕は、日本の社会問題として注目されている。
詐欺容疑で逮捕された元高橋デンタルオフィス院長、高橋仁一氏
被害者の生々しい証言
前金で治療費を支払い、下の歯を全て抜いて人工歯根を4本入れたにもかかわらず、治療が中断してしまった別の被害者もいる。この被害者は、下顎にチタン製の人工歯根が埋め込まれたむき出しの歯茎の状態で、かれこれ7〜8年も過ごしているという。彼はこう証言する。
「下に4本入れた人工歯根のうち2本は、深さが足りなかったのか、術後わずか3カ月ほどで抜け落ちてしまいました。今はだいぶ慣れましたが、当初は食べ物をうまく噛めず、胃腸炎にも苦しみました」
それ以降、彼はいくら通院しても、歯を少し見られるだけで、高橋容疑者は「骨の状態がまだ良くない」などと理由をつけて治療を進めることはなかったという。
「協力金」名目で400万円返金と騙す手口
一方で、高橋容疑者の巧みな言葉に乗せられ、大金を失ったケースも後を絶たない。2021年3月、治療費200万円を支払った千葉県在住の主婦(50代)もその一人だ。初診から2週間ほど経ったある日、高橋容疑者から急にクリニックに呼び出され、以下のような提案を受けたという。
「この春から、ジルコニアインプラントを扱う医師の中で最も高い立場になり、学会で発表する資料用のサンプルとして3名を選べるようになりました」
選ばれた患者は、インプラントメーカーから治療費全額が返ってくるという触れ込みだった。ただし、サンプルになるには「条件」があり、治療費と同額の「協力金」を払える患者に限るというのだ。高橋容疑者は、
「追加で200万円支払っていただけると、後日400万円戻ってきます。もうすでに1人は決まっているのですが、どうでしょう?」
と迫った。女性はあるウェブサイトで高評価だった高橋容疑者を名医だと信じ、TDOに通っていたため、「名医が嘘をつくはずがない」と話を信じ、夫に相談の上で協力金の支払いを決断した。この時交わされた契約書には、2021年12月末と治療完了時の2回に分けて200万円ずつ、合計400万円が返還されることが明記され、高橋容疑者の実印が押されていたという。
まとめ
今回逮捕された高橋仁一容疑者によるインプラント詐欺事件は、単なる金銭的な被害にとどまらず、患者に長期にわたる身体的苦痛や精神的負担を与えている実態が、被害者たちの生々しい証言から明らかになった。健康な歯を失い、治療が中断されたままの状態で何年も過ごさざるを得ない被害者や、「協力金」という名目で多額の現金を騙し取られ、返金が滞る被害者など、その手口は悪質かつ多様である。今回の逮捕は、こうした歯科医療における不正行為に対する警鐘となると同時に、医療機関を選ぶ際の慎重さの重要性を示唆している。