日本の「現金離れ」止まらず:背景と今後の展望

昨年7月3日に20年ぶりとなる新紙幣が発行されてから約一年が経ちました。これにより「現金」そのものへの注目は一時的に集まりましたが、社会全体の現金離れはますます進んでいます。日本銀行のデータによると、今年5月の現金流通高は前年同月比1.8%減と、19カ月連続での前年割れ。この一年間で現金流通高は約2兆円減少しており、このトレンドが明確に継続していることが示されています。

現金離れを加速させる要因

現金が使われる機会が減少している背景には、主に三つの要因が挙げられます。第一に、キャッシュレス化の急速な進展。クレジットカード、電子マネー、QRコード決済などが広く普及し、多くの場面で現金以外の支払い手段が利用可能になりました。第二に、物価上昇率の高止まりによる現金の相対的価値の目減り。物価が上昇すると、現金として保有するインセンティブが低下します。第三に、一部金融機関での硬貨預け入れ手数料導入によるキャッシュレスへの移行。これにより、大量の硬貨を扱う事業者などが現金での取引を避け、手数料のかからない決済手段へ移行する動きが見られます。これらの要因は今後も継続すると考えられ、現金需要を抑制し続けるでしょう。

現金が持つ根強い強み

一方で、キャッシュレス決済にはない、現金ならではの優位性も多く存在します。最も根本的な強みは、「使用不能になるリスクが低い」点です。システム障害や通信環境に左右されず、非常時でも安定して利用できます。また、「技術的・経済的ハードルが無い」ことも重要で、スマートフォンや銀行口座を持たない人々でも容易に利用でき、誰にでも開かれた支払い手段と言えます。さらに、「使いすぎる心配が少ない」ため家計管理がしやすい側面や、「匿名性が高い」ためプライバシーが守られるという利点もあります。加えて、贈答や冠婚葬祭といった特定の場面では、現金のやり取りが適しているという文化的・社会的背景も無視できません。これらの利点が、現金の根強い需要を支え続けています。

積み上げられた日本円の紙幣積み上げられた日本円の紙幣

現金の未来像

現金が持つこれらの強みがある限り、その需要が完全に消滅することは考えにくいです。仮に将来、「電源不要でシステム障害のリスクがなく、誰でも極めて容易に使える支払い手段」が開発され、広く普及すれば現金の存在を脅かす可能性はありますが、そのような技術の実現は非常に難しく、少なくとも感覚的にイメージできる今後数十年から百年といった期間で実現することは現実的ではないでしょう。

したがって、今後もキャッシュレス化や物価上昇のトレンドが続く中でも現金は社会に残り続け、日常的な使用は減りつつも、特定の場面や利用者に選ばれるニッチな存在へと変化していくでしょう。また、現金が存続する限り、偽造防止のための技術向上は不可欠であり、定期的に新紙幣や新硬貨が発行され、その都度世間の注目を集めることになるでしょう。

結論

日本の現金離れは、キャッシュレス化の進展や物価上昇、手数料導入といった要因により今後も進行するとみられますが、現金が持つ非常時の強さやアクセスの容易さ、匿名性といった根源的な利点から、その需要が完全に失われることはないでしょう。将来的には、現金はすべての支払いの中心から外れ、特定の用途や状況下で選ばれる支払い手段として、キャッシュレス決済と共存していく可能性が高いです。新紙幣の発行は、この過渡期において現金の存在意義を再認識させる機会となるでしょう。