ブラジル:ピットブル2頭が格闘家を襲撃「殺されるかと思った」生死を分けた5分間

ジョギング中の日常が、突然、死の淵を彷徨う激しい格闘へと変貌した――。ブラジルで、プロのムエタイ格闘家兼指導者であるエルネスト・シャヴェスさん(33歳)が、路上に放たれていた2頭のピットブルに襲われる衝撃的な事件が発生した。この事態を受け、飼い主の厳格な管理責任が改めて問われていると、現地メディアが報じている。シャヴェスさんは咄嗟に応戦し、約5分間にわたる死闘の末に犬を制圧したが、全身に複数の重傷を負い、病院での治療を余儀なくされた。日頃から鍛え抜かれた格闘家でさえ、命の危険を感じたという。

事件の詳細

事件は6月29日(日)の午前9時半頃、ブラジル中西部マット・グロッソ・ド・スル州ポンタ・ポラン市で発生した。シャヴェスさんはイヤホンを装着してジョギングしており、背後からの犬の接近に全く気づかなかった。彼は襲われた瞬間の恐怖をこう振り返る。「飛びついてきたときは、最初は遊びたがっているのかと思ったんだ。でも、それがピットブルだと気づいた瞬間、全身が凍りついた。攻撃だと分かって、必死で逃げようとしたんだ」。

死を覚悟した格闘家

ムエタイの指導者として長年鍛錬を積み、ブラジリアン柔術の経験もあるシャヴェスさんは、犬に襲われた際の対処法について一定の知識を持っていた。しかし、2頭のピットブルの力は想像を絶するものだった。「本当に死ぬかもしれないと思った。ピットブルは信じられないほど力が強く、この攻撃には耐えられないと感じた」と、当時の絶望的な状況を語った。

決死の攻防と救出

襲いかかってきたのは2頭ともメスのピットブル種だった。シャヴェスさんは抵抗を試み、犬の首輪を掴んで引き剥がそうとしたが、逆に地面に引き倒されてしまった。彼は地面に倒れたまま、およそ5分間、犬と格闘を繰り広げた。必死の抵抗の末、なんとか2頭の犬を抑え込むことに成功した。騒ぎを聞きつけた近隣住民が駆けつけ、ロープを使って犬を拘束。その後、通報を受けて現場に急行した警察と消防によって、2頭のピットブルは確保された。シャヴェスさんは、犬が確保されるまでの間も恐怖から逃れられなかったという。「警察が到着するまで、犬を放すことはできなかった。2頭の鋭い牙が、私の顔のすぐそばにある状態で、ただ動かずにいるしかなかった。あれは本当に恐ろしい体験だった」。

ブラジルでピットブルに襲われ、脚部に複数の怪我を負った格闘家エルネストさんブラジルでピットブルに襲われ、脚部に複数の怪我を負った格闘家エルネストさん

深刻な怪我と被害者の訴え

この襲撃により、シャヴェスさんは両脚部に複数箇所を噛まれたほか、右手の指を骨折するなど、全身に及ぶ怪我を負った。日頃から身体を使う格闘技の指導者という職業柄、怪我によって仕事に大きな支障が生じていることに、彼は強い憤りを隠さない。「あのままでは命を落としていてもおかしくなかった。私の生活にも仕事にも、計り知れないほど大きな影響が出ている。これは完全に飼い主の過失だ」と、飼い主の責任を強く訴えた。

捜査状況と飼い主の主張

警察は事件翌日の30日、ピットブルが普段飼育されている現場を訪れて調査を行ったが、その時点での飼育状況自体には特段の問題は確認されなかったと報じられている。しかし、近隣住民の証言によれば、犬が飼われていた倉庫の門は通常は常に閉まっているが、事件発生当日は開いていたという。飼い主は警察の聴取に対し、「何者かが倉庫に侵入し、盗難を試みた可能性がある」と供述しており、その際に門が開けられ、犬が敷地外に出てしまった可能性を示唆している。ピットブルは敷地の警備目的で飼育されていたという。

法的責任と公共の安全

この事件は現在も捜査が継続されている。飼い主は今後、「動物の飼育または管理における注意義務違反(omissão de cautela na guarda ou condução dos animais)」の容疑で責任を問われる見通しだ。この容疑はブラジルでは軽犯罪に分類されており、通常は簡易事件記録書(TCO: Termo Circunstanciado de Ocorrência)への署名をもって手続きが終了する形式が取られることが多い。シャヴェスさんは、襲撃現場周辺が人通りが多く、妻も普段ウォーキングに利用しており、現場からわずか約200メートルほどの場所に保育施設もあることに言及し、強い懸念を示した。「もし、私のように対処できる人間でなく、普通の人が被害に遭っていたら、確実に死亡事故につながっていた可能性が高い」と述べ、大型犬の管理徹底の重要性を改めて訴えた。

この事件は、特定の犬種、特に闘犬種の飼育がいかに重大な責任を伴うか、そしてその管理が怠られた場合に公共の安全にもたらす脅威を鮮明に示した。シャヴェスさんの怪我からの回復と、事件の公正な結末が待たれる。

参照元: G1, Brasil Nippou など現地メディア報道 (Yahoo! News Japan 経由)