約40秒にも及ぶ白熱した四つ相撲の末、幕下力士を土俵に力強く投げ飛ばす。立浪部屋での稽古動画に映し出されたヤルデン・ヤトコブスキーさん(27)の鍛え上げられた姿は、まさにプロの力士に引けを取らない。イスラエルから来日して約2年半が経過したが、大相撲の力士となる夢はまだ実現していない。その道のりを阻む壁は何なのか。
「目で見て、耳で聞いたら、失敗を恐れず行動あるのみ」。これは、ある相撲部屋の綱領に掲げられている言葉であり、ヤルデンさんの日々の指針、座右の銘となっている。
夢への探求と異国の地での鍛錬
毎日、この言葉を胸に汗を流すヤルデンさん。午前中は立浪部屋で力士たちと共に厳しい稽古に励み、午後はジムでさらなる筋力アップに努めている。
相撲に心を奪われたのは、わずか4歳の頃だった。祖父と一緒に衛星放送で観戦した大相撲中継で、巨漢力士たちが力と技をぶつけ合う迫力ある光景にすっかり魅了されたという。
将来の夢を大相撲の力士と定めたものの、母国イスラエルには相撲道場が存在しなかった。その代わりに、柔道やレスリングで身体を鍛え、基礎体力と格闘技術を磨いた。
ユダヤ人の義務である兵役に18歳で就くと、力士の体を作るために食事量を大幅に増やした。また、四股やすり足、てっぽうといった相撲の基本動作を独学で徹底的に研究した。さらに、ユダヤ文化ではなじみの薄い豚肉やエビを含む「ちゃんこ」も食べられるように食生活も適応させた。
立ちはだかる現実と諦めない情熱
しかし、2年8カ月の兵役を終え、いよいよ日本への渡航を計画していた2020年3月、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、来日の目処が立たなくなってしまう。
その後、知人の紹介を通じてモンゴルへ渡り、現地の環境で武者修行を積んだ。そして、ようやく念願の来日を果たしたのは2022年10月。この時、ヤルデンさんはすでに24歳になっていた。
大相撲の世界に入るための日本相撲協会の新弟子検査には、「23歳未満」という厳格な年齢制限が設けられている。この規定により、制度上、ヤルデンさんの入門は認められない現実がある。
イスラエル出身ヤルデン・ヤトコブスキーさん、立浪部屋の土俵で力士になる夢に向け稽古に励む
それでも、ヤルデンさんは力士になる夢を諦めることなく、厳しい稽古を続けている。年齢という乗り越えがたい壁に直面しながらも、彼を突き動かす原動力は一体どこから来るのだろうか。その情熱は、多くの人々に強い印象を与えている。