参議院選挙の公示後、「保守王国」と呼ばれる九州地方(全7選挙区で自民党が議席を持つ)に、各党のトップが続々と足を運んでいます。特に、自民党総裁である石破茂首相は、9日に佐賀県と長崎県を訪問し、7日の宮崎県と鹿児島県に続き、現職候補の支持固めに奔走しました。これに対し、立憲民主党の野田佳彦代表をはじめとする野党側も、選挙戦の序盤から積極的な攻勢を仕掛けています。複数区である福岡選挙区と、選挙全体の行方を左右する可能性のある1人区を併せ持つ九州は、まさに全国情勢の縮図と言え、各党首の熱い火花が散らされる舞台となっています。
9日、佐賀市で行われた街頭演説で、自民党現職候補への応援に駆けつけた石破首相は、かつてないほどの悲壮感を漂わせました。「今回ほど厳しい参議院選挙は見たことがない。日本のために、どうか助けてください」。首相の九州入りは、公示からわずか数日にして早くも2回目です。前回2022年の選挙で全勝を果たした状況とは一転、今回はどの選挙区も「猛烈な逆風」下にあり、「保守王国」の議席を守るべく、てこ入れを強化している様子がうかがえます。しかし、ある党佐賀県連幹部は「従来の支持層が離れている」と危機感を口にします。佐賀は、更迭された前農相による「コメは買ったことがない」との失言が出た地でもあり、「自民党離れ」の傾向は否定できません。演説で農業政策に最も時間を割いた首相は、「コストを削減し、農家の所得を増やしていく」と最大限のアピールを続け、足早に次の応援先へと向かいました。同じく与党である公明党も、厳しい選挙戦に直面しています。福岡選挙区(改選数3議席)に擁立した現職候補は、報道各社の情勢調査で「当落線上」にあると報じられています。公示日の3日に福岡入りした斉藤鉄夫代表は、「物価高を乗り越えるため、給付金も減税も両方実施する」と経済対策を強く訴えました。
反自民の受け皿を巡る攻防
立憲民主党の野田代表は、佐賀での失言により辞任した前農相の地盤である宮崎県を、今回の選挙戦における「第一声」の地に選びました。「宮崎から自民党のドミノ倒しを始め、九州から日本を変えていこう」と、野田氏は反攻の狼煙を上げました。立憲民主党はこれまで、党の支持基盤が「東高西低」と言われ、九州での議席獲得は容易ではありませんでした。今回の自民党への逆風を好機と捉え、「西から勢いをつけ、東へと向かう」戦略で臨んでいます。宮崎で「農地や農業者の減少傾向に歯止めをかける」と農業政策の重要性を強調した後、大分県へと北上。翌日には佐賀、熊本、鹿児島の各県を巡り、2日間で5選挙区を駆け回る精力的な遊説を展開しました。勢いを欠く与党に対し、議席の上積みを狙う立憲民主党ですが、反自民票の受け皿としては、国民民主党や急速に支持を広げる参政党なども立ちはだかります。佐賀市での演説で、野田氏は集まった支持者に対し「今度こそ勝ちましょう。参議院でも必ず勝ちましょう」と、勝利への強い決意を繰り返し呼びかけました。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、4日に初の議席獲得を目指す福岡県と長崎県を巡りました。福岡市のJR博多駅前での街頭演説では、「手取りを増やし、消費を拡大して経済を元気にする」と、経済政策を中心とした熱弁を振るいました。国会に議席を持つ全10党が候補者を擁立している福岡選挙区は、今回の参院選で最も激しい論戦が繰り広げられている選挙区の一つです。
参院選九州の激戦地、福岡市での党首街頭演説に耳を傾ける有権者たち
6月の東京都議会議員選挙で議席を獲得できず、今回の参院選で再起を図るれいわ新選組の山本太郎代表も、8日に福岡市での集会に参加しました。また、日本維新の会の吉村洋文代表は4日に、社民党の福島瑞穂党首も7日にそれぞれ福岡市内でマイクを握り、それぞれの立場から有権者に支持を訴えました。九州、特に福岡は、各党のトップが直接民意に語りかける、全国でも注目の激戦区となっています。