名曲「津軽海峡・冬景色」にも歌われた「上野発の夜行列車」はこれで見納め。6月28日、上野駅13番ホームから仙台に向けて出発する寝台特急「カシオペア」の最終運行を一目見ようと、隣のホームには1000人をはるかに超える鉄道ファンが集まったのだが、意外にも……。
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警官まで動員したのに
出発予定時刻22時40分。その約1時間前にお目当ての列車が入線してくると、ほぼ全員が一斉にカメラやスマホをかざし、最後の雄姿を写真に収め続けた。
線路内に入って撮影するなど、マナー違反を指摘されることもある“撮り鉄”対策で、ホームには駅員だけでなく警官まで動員して警備、ロープで行動範囲を制限する厳戒態勢に。
だがその必要はなかった。怒号なし、場所取りを巡る争いもなし。ひときわ混雑していたカシオペアのヘッドマーク付近でさえ、押し合いはなし。礼儀正しいのだ。
そして出発のアナウンスとともに列車が動き始めると、再び撮影タイムに。最後尾の車両が上野駅から姿を消し、星空の下に消えていくと、あちこちから「ありがとう〜!」の声が上がった。
フレンチに懐石料理も
カシオペアは1999年に上野―札幌間を約16時間で結ぶ豪華寝台特急列車として登場。最も一般的なツインタイプの部屋でも全室トイレ・洗面台付き。さらに豪華なスイートルームにはシャワー室やベッドも完備。ルームサービスをオーダーできるほか、ディナータイムの食堂車ではフランス人デザイナーがデザインした食器でフランス料理のフルコースや懐石料理が提供される豪華さが支持され、発売と同時に売り切れる人気列車に。
しかし、北海道新幹線の開業に伴い2016年に定期運行を終了。同年6月からはツアー列車として不定期に運行するのみとなり、さらに予約が取りにくい車両となっていた。
そして、車両の老朽化などを理由に、28日の運行がラストランに。惜しまれながらもその26年の旅路に幕を下ろした。
撮影・沼野井聡
「週刊新潮」2025年7月10日号 掲載
新潮社