特定外来生物ミステリークレイフィッシュ、松山で再び確認 那覇では駆除に苦慮

メスだけで繁殖する特定外来生物「ミステリークレイフィッシュ」が5~6月、愛媛県松山市で再び発見された。2020年に特定外来生物に指定されており、飼育されていた個体が野外に放たれると日本の生態系に重大な影響を与える危険性がある。那覇市でも駆除に苦慮しており、環境省は安易な野外放出に対して強い注意を呼びかけている。

ミステリークレイフィッシュの特性と生態系への脅威

ミステリークレイフィッシュは、観賞用として飼育されていたスロウザリガニが突然変異して誕生したとされる。最大の特徴は、オスがいなくてもメス単体で卵を産み繁殖できる「単為生殖」を行うことだ。この能力により、たった1匹が野外に侵入しただけでも爆発的に増殖する可能性がある。

海外では、ペットとして導入されたドイツやオランダで野外での繁殖が確認されている。また、食用として持ち込まれたマダガスカルでは、水路などで大量に生息し、現地の生態系に悪影響を与えている。水温15度以上の環境であれば、一度に最大で400個もの卵を産むという海外での調査結果もあり、その高い繁殖力が脅威となっている。

野外に定着した場合、水生植物を食害したり、切断したりする直接的な被害に加え、「ザリガニペスト」と呼ばれる病原菌を媒介し、日本の在来種であるニホンザリガニなどに深刻な影響を与える恐れがある。これらの特性から、環境省は生態系への被害防止を目的に、2020年11月にミステリークレイフィッシュを特定外来生物に指定。無許可での飼育、保管、運搬、輸入、野外への放出などが原則として禁止されている。

国内での発見事例と現状

国内では、2006年に北海道で初めて野外個体が確認された。その後、2016年には今回発見があったのと同じ愛媛県松山市の泉で1匹が見つかっている。これらの発見を受け、定着を防ぐための法的な措置として特定外来生物への指定に至った経緯がある。

松山市での最新の発見状況

今回、松山市でミステリークレイフィッシュが見つかったのは、5月31日に市民からの連絡がきっかけだった。同市森松町の泉で2匹が捕獲されたとの情報が愛媛県生物多様性センターに寄せられた。センター職員が確認のため現地調査を行ったところ、6月3日にその泉の近くでさらに1匹を発見した。偶然にも、これは2016年に個体が発見された場所と同一地点だった。

愛媛県生物多様性センターの村上裕主任研究員は、今回の発見について、「9年前に見つかった個体の子孫であれば、もっと数が増えていてもおかしくない」と指摘する。その上で、外見が非常に似ているアメリカザリガニと間違えられており、実際には野外で繁殖していても見落とされている可能性も否定できないとして、市民からの情報提供を広く求めている。

那覇市での駆除の困難さ

一方、沖縄県那覇市では、ミステリークレイフィッシュの駆除に向けた対応がより困難な状況に直面している。環境省沖縄奄美自然環境事務所によると、昨年8月に市内の公園の池で7匹が確認された。現在、発見場所である池の周囲への立ち入りを制限し、それ以上の拡散を防ぐ措置は講じている。しかし、この池に既に定着しているとみられており、正確な生息個体数を把握することができていない。

那覇市の野生生物課の担当者は、「池の水を抜いて駆除を試みると、かえって個体が周辺環境に逃げ出してしまい、被害が拡大するリスクがある」と、安易な駆除手法がとれない現状を説明する。また、「国内では、ミステリークレイフィッシュの効率的かつ確実な防除方法がまだ確立されていない」ことも、対応を難しくしている要因となっている。

愛媛県松山市で発見・捕獲された特定外来生物「ミステリークレイフィッシュ」の様子愛媛県松山市で発見・捕獲された特定外来生物「ミステリークレイフィッシュ」の様子

生態系保全に向けた呼びかけ

相次ぐミステリークレイフィッシュの野外での発見事例は、この特定外来生物が日本の生態系に侵入し、定着する危険性が現実のものであることを示唆している。特にその驚異的な繁殖力と、在来種への病気媒介リスクは無視できない。

環境省は、一般市民に対し、ミステリークレイフィッシュを含む特定外来生物を無許可で飼育したり、絶対に野外に放したりしないよう改めて強く呼びかけている。観賞魚やペットとして飼育している生物が、不用意な放出によって「第2のアメリカザリガニ」のような深刻な外来種問題を引き起こすことのないよう、責任ある行動が求められている。不審なザリガニを見つけた場合は、速やかに最寄りの自治体や環境省の窓口に情報を提供するなど、適切な対応への協力が不可欠である。