参院選の外国人政策論争:「報道特集」が問うヘイトスピーチとの境界

TBS系「報道特集」(土曜午後5時半)が7月12日の放送で、参院選に向けて急速に争点化している外国人政策に焦点を当てた。日本国内における外国人の存在感が増す中で、このテーマを巡る議論や懸念が高まっている現状を多角的に報じた。番組は、各党の政策やSNS上でのヘイトスピーチの現状、そして専門家や現場の声を通して、この複雑な問題に切り込んだ。

「報道特集」が報じた外国人政策の争点化と現状

番組はまず、参院選に臨む各党の外国人政策を一覧で紹介し、一部政党が掲げる「日本人ファースト」というキャッチコピーにも触れた。その一方で、SNS上などインターネット空間で外国人に対する排斥的な言葉やヘイトスピーチが飛び交っている実態を克明に伝えた。

日本に滞在する外国人の状況については、人口が増加傾向にあるにもかかわらず、刑法犯の検挙人数は減少傾向にあるというデータを示した。また、一部で「外国人優遇」と批判される制度についても、支援団体の見解として「根拠がない」とする声を紹介。さらに、日本で暮らす中国人留学生が感じる不安の声なども伝えた。

TBSアナウンサー山本恵里伽氏。参院選に向けた外国人政策に関する報道特集の論点を伝える。TBSアナウンサー山本恵里伽氏。参院選に向けた外国人政策に関する報道特集の論点を伝える。

「日本人ファースト」はヘイトスピーチなのか?専門家が解説

番組では、大阪公立大の明戸隆浩准教授がインタビューに応じ、キャスターの山本恵里伽アナウンサーが「『日本人ファースト』という言葉、かなり独り歩きしているな、という印象はあるんですけど、ヘイトスピーチとは違うのか」と問いかけた。

明戸准教授はこれに対し、「『日本人ファースト』という言い方だけを取り上げると、『日本人を大事にします』という意味に捉えられ、『それが排外主義やヘイトスピーチなのか?』と言えてしまう」と前置きした上で、「ヘイトスピーチで最も重要なのは『差別の扇動』だ」と指摘。差別用語を一切使わずに差別を煽ることが可能であり、「『自分は直接『出てけ』とは言っていない』と言い訳ができてしまう」構造を解説した。しかし、実際には「『日本人ファースト』がその支持層に対して排外主義やヘイトスピーチを煽る効果がある」と強調し、これは「言っている側も分からないわけがない」と断じた。

ジャーナリストたちの危機感と投票への呼びかけ

山本アナウンサーは、外国人政策が急浮上する中で、これまで注目されなかった強硬な主張が支持を集めたり、社会が受け入れなかった排外的な言葉がSNSで拡散したりする現実に「正直すごく戸惑いを感じている」と心情を吐露した。そして、「実際に外国籍の人と全く関わらずに生活している人はほとんどいないはずだ」と述べ、友人や同僚など身近な人々への影響を考慮し、「自分の1票が、ひょっとしたらそういった身近な人たちの暮らしを脅かすものになるかもしれない。これまで以上に想像力を持って、投票しなければいけない」と視聴者に訴えかけた。

これを受け、日下部正樹キャスターは「差別による痛みや恐怖は、差別を受けた人にしか分からない」と述べ、想像力の欠如が差別を社会に瞬く間に広げると警鐘を鳴らした。さらに、「古今東西を問わず、閉塞感に満ちた社会はその原因を外に求めがちだ」と社会構造に触れ、本来差別を止めるべき政治家が誤った情報に基づき「外国人が優遇されている」と喧伝している現状を批判。「外国人がいなくなれば本当に問題が解決するのか」と問いかけ、「差別が票になるような社会にしてはならない」と強く締めくくった。

参院選を前に外国人政策が重要な論点となる中、「報道特集」は、表面的な議論の裏にある排外的な感情やヘイトスピーチの問題を浮き彫りにした。専門家やジャーナリストたちの指摘は、安易な言葉が差別を助長し、社会に分断をもたらす危険性を示唆している。私たち有権者一人一人が、単なるスローガンに惑わされず、現実を理解し、想像力を持って投票行動に臨むことが、差別が政治利用されることを防ぎ、共生社会を守るために不可欠である。