約7年前の2018年10月、大手コンサルファーム「デロイト トーマツ コンサルティング」で前代未聞の「集団引き抜き事件」が密かに画策されました。その舞台となったのは、東京・西麻布の高級寿司店。この事件は、業界のトッププレイヤーであるデロイトと、別の「会計系ビッグ4」である「EYストラテジー・アンド・コンサルティング」を巻き込み、最終的には法廷闘争へと発展しました。本記事では、コンサル業界における仁義なき引き抜き工作の実態に迫ります。
デロイト トーマツ コンサルティングとコンサル業界の集団引き抜き事件を象徴するイメージ
西麻布の高級寿司屋での“密談”
2018年10月23日の夜、東京・西麻布の閑静な裏路地に佇む高級寿司屋に、5人の男性が集まっていました。その中心にいたのは、当時デロイト トーマツ コンサルティングの業務執行役員(パートナー)を務め、「経済安全保障」研究の第一人者として知られる國分俊史氏です。残りの4人は、國分氏が率いる「NISTチーム」のメンバーで、彼らはNIST(米国国立標準技術研究所)のガイドライン導入に関するコンサルティング業務を担当していました。
この会食の真の目的は、チーム全員でライバル企業であるEYストラテジー・アンド・コンサルティングへの移籍を画策するための“密談”でした。國分氏が移籍後のビジョンを熱く語る中、他のメンバーは傾聴していましたが、國分氏には一つの誤算がありました。チームの一員であるA氏は、この会食には「付き合い」で参加したに過ぎず、移籍には前向きではなかったのです。
訴訟へと発展した「違法な引き抜き」
会食の翌月、國分氏はデロイトを退社し、その後EYへと移籍しました。NISTチームのメンバーのうち3人も、翌年2月から3月にかけて國分氏の後を追う形でEYに移籍。しかし、A氏は熟考の末、デロイトへの残留を決断しました。
約3年後の2021年6月、事態は東京地裁へと持ち込まれます。デロイトは、この一連の移籍を「違法な引き抜き」であるとし、國分氏に対し約1億2000万円の損害賠償を求める裁判を起こしたのです。この訴訟でデロイト側の証人として法廷に立ったA氏は、複雑な胸の内を明かしつつも、「私自身が正直にお話しすることが、今現時点でデロイトに所属している職員として、本件に関わった私の責務である」と述べ、一部始終を詳細に証言しました。
この事件は、コンサル業界における熾烈な人材獲得競争の一端を浮き彫りにし、その“闇”を深く探るきっかけとなりました。裁判資料や当時の業界関係者の証言からは、「なりすましメール」や「文春オンライン」まで登場する異例の引き抜き工作の実態が明らかになっています。
参考文献:
- 週刊新潮 2025年7月24日号
- 「短期集中連載第2回 コンサル業界の光と影 前代未聞の『デロイト トーマツ』訴訟でわかった“仁義なき引き抜き工作”」
- Source link (Yahoo!ニュース – デイリー新潮編集部)