航空機事故の原因は多岐にわたりますが、中には空の安全を担うべきパイロットが、乗員乗客を道連れに意図的に機体を墜落させるという、極めて衝撃的なケースも過去に複数発生しています。このような事例は稀であるものの、その影響は甚大であり、航空業界全体に深刻な問いを投げかけています。特に、最近発生したエア・インディア171便の事故調査が進む中で、再びパイロットの精神状態と航空安全の関連性が議論の焦点となっています。
エア・インディア171便墜落事故:パイロットの意図的な行動か
6月12日、インドのアーメダバード空港付近で発生したエア・インディアのボーイング787型機墜落事故では、搭乗していた242人のうち241人が命を落としました。これは過去10年間で最悪の民間航空機事故の一つとされています。事故調査が進むにつれ、離陸上昇中にエンジンが停止したことについて、副操縦士が機長を問い詰めていた音声記録が明らかになりました。この記録から、機長が意図的に航空機を墜落させ、乗員乗客の命を奪った可能性が浮上しています。
7月15日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、事故機の燃料制御装置は離陸からわずか数秒で停止されており、インド民間航空総局によれば、2つのスイッチが約1秒の間隔で切り替えられていたことが判明しました。航空コンサルタントであり元ボーイングパイロットのモハン・ランガナサン氏は、インドのニュースメディアNDTVに対し、燃料遮断が偶発的に起こる可能性は「絶対に」あり得ないと断言しています。彼は、「燃料を制御するスイッチの切り替えは手動でしかできない。自動的に切り替わることも、電源障害で切り替わることもない。……スライド式ではないため、スイッチを引っ張って上下に動かさないといけない。そのため、誤ってスイッチをオフにしてしまうことはない」と説明しています。しかし、調査当局は現在も、この操作が故意によるものなのか、あるいは事故によるものなのかを断定しておらず、時期尚早な憶測を戒めています。
飛行機のコックピットで操縦桿を握るパイロット。航空機の安全と乗客の命は彼らの手に委ねられている。
過去に発生したパイロットによる意図的墜落事例
パイロットによる意図的な墜落や無理心中は非常に稀な事象ですが、過去にも類似の悲劇が発生しています。
- シルクエアー185便墜落事故(1997年):アメリカの調査当局は、パイロットによる無理心中が原因であると結論付けましたが、インドネシア政府はこれに反論しています。
- エジプト航空990便墜落事故(1999年):アメリカの調査当局はパイロットによる意図的な墜落としましたが、エジプト政府は強く反論しました。これら2件の事故で、合計321人が命を落としました。
- マレーシア航空370便失踪事件(2014年):インド洋上で墜落したと推定されていますが、いまだ真相解明には至っていません。しかし、ザハリー・アハマド・シャー機長による無理心中という説は、最も有力な仮説の一つとされています。
- ジャーマンウイングス9525便墜落事故(2015年):副操縦士のアンドレアス・ルビッツが機長をコックピットの外に締め出した上で、エアバスA320型機をフランス・アルプスに意図的に墜落させ、搭乗者150人全員が死亡しました。
- 中国東方航空5735便墜落事故(2022年):巡航高度から急降下して墜落し、132人が死亡したこの事故でも、無理心中だった可能性を示唆するデータが流出しています。
これらの事例は、パイロットが極度のプレッシャーや精神的な問題を抱えることが、いかに甚大な結果を招きうるかを示しています。
パイロットのメンタルヘルスと航空安全への影響
航空機を操縦するパイロットは、乗員乗客の命を預かるという計り知れない責任を負っており、高いスキルと同時に強靭な精神力が求められます。しかし、彼らも人間であり、個人的な問題、仕事上のプレッシャー、疲労などがメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性があります。今回のエア・インディア171便の事故疑惑を受け、パイロットのメンタルヘルスに対する確認、支援、そして継続的なモニタリングの必要性について、国際的な議論が加速しています。
航空業界は、事故の再発防止のため、技術的な改善だけでなく、パイロットの精神状態を適切に評価し、必要なサポートを提供するためのより強固な枠組みを構築していくことが求められています。パイロットのメンタルヘルスへの意識向上と対策強化は、未来の航空安全を確保する上で不可欠な要素と言えるでしょう。
参考文献
- ウォール・ストリート・ジャーナル
- NDTV
- Newsweek Japan
- インド民間航空総局 (DGCA)
- インド航空事故調査局 (AAIB)