旧車に魅せられた人々:昭和の愛車が紡ぐ、家族と人生の温かい絆

世間の潮流から忘れられゆく時代の中で、かつての憧憬を今も追い求める者たちがいる。彼らは昭和の時代に生まれた車をこよなく愛し、そのユニークな感性で自らの「車のある暮らし」を築いている。単なる移動手段を超え、人生の喜びや家族との絆を深める存在としての旧車。本稿では、そんな熱き愛好家たちの知られざる本心と、彼らの車が織りなす温かい物語に迫る。

家族の絆を深める「愛車」:孫に捧げるサニートラック

バイク運搬のために15年前にサニートラックを購入した60代の田中さんは、休日のイベントに孫と共に訪れた。かつては愛車で妻と各地を巡ったものだが、今では「せっかくの休みなのに、なぜわざわざ」と妻から言われることも。それでも、孫との時間は彼にとって何よりも大切だ。「今日は孫と二人で来てるんだよ。同居じゃないんだけど、娘家族が週末になるとよく来るから、もう随分前から預かるようになってさ。俺がこういう集まりに行こうとすると、カミさんが『一緒に連れて行きなよ』って」。孫への愛情はまさに溺愛そのもので、「孫はもう車やバイクが好きみたいだから、大きくなったら全部あげるつもりだよ」と、旧車への情熱が世代を超えて受け継がれる温かい光景がそこにあった。

サニートラックの助手席で笑顔を見せる田中さんの孫と、愛車を前に語らう田中さん。旧車との温かい家族の絆を象徴する一枚。サニートラックの助手席で笑顔を見せる田中さんの孫と、愛車を前に語らう田中さん。旧車との温かい家族の絆を象徴する一枚。

親子の世代間ギャップ:憧れのセリカXXが直面した現実

しかし、すべてのケースで理想的な調和が生まれるわけではない。幼少期に父親が乗っていたセリカXXに憧れ、念願かなって同型のモデルを手に入れた「じゅんいち」さんは、意外な反応に直面した。「父の反応は想像以上にドライだったんですよ。『こんな乗りにくい車にはもう乗れない』といって、まったく興味を示さなくて。おまけに『もういい大人なんだから、いい加減落ち着いた車に乗りなさい』とまで言われてしまったんですよね」。それでも彼は「セリカに乗る楽しさがなくなるわけじゃない」と、自身の感覚と「昭和の車」への思いを大切にし続けている。

夫婦で育む「車のある暮らし」:夢のガレージハウスと7台の愛車

2歳と0歳の子どもを育てながら、なんと7台もの車を維持しているのが「こうき」さん一家だ。愛車の整備のため、夢だったガレージハウスまで購入したという。「車のために100坪超の土地を選んだので、正直かなりの額になりましたが、妻の後押しもあって覚悟を決めるしかないと」。幸いにも妻も大の車好きで、「結婚したあとも、子どもが生まれてからも、車の趣味を一緒に楽しんでくれていて、ありがたいかぎり」と語る。彼らの「車ライフ」は、まさに家族の絆と共通の趣味が織りなす理想的な形と言えるだろう。

「魔力」に囚われた旧車愛:妻の理解を超えた情熱

一方で、バッチリとキメたリーゼントに真っ赤な作業服という個性的な出で立ちでフェアレディZに乗る「ムネ」さんは、妻からの理解は薄い。「ドライブに誘っても、『見られるのが恥ずかしいから乗りたくない』なんて言われちゃって」と苦笑いしながらも、旧車の魅力に憑りつかれた彼は楽しげに愛車への思いを語る。「最近の車ではどうにもワクワクできないんです。反対に、このL型エンジンのフィーリングや整備性には、長く乗るほど抜け出せなくなる魔力があるんですよね」。家族の理解は異なるものの、彼にとっての昭和の車は、尽きることのない探求と喜びの源となっている。

昭和の時代に生み出された車に魅せられた人々の物語は、単なる愛車への情熱だけではない。そこには、家族との関係性、そして人生の選択が色濃く映し出されている。彼らの言葉の端々からは、単なる趣味を超えた、まさに「生き方」そのものが感じられるのだ。彼らが守り続ける「旧車」は、過去の象徴であると同時に、現代の彼らの人生を豊かに彩るかけがえのない存在なのである。


著者: 鹿間 羊市
情報源: Yahoo!ニュース/文春オンライン