近年、日本全国で不登校の児童生徒が急増しており、文部科学省の調査によれば、過去10年間でその数は倍以上に膨れ上がっています。この深刻な状況の背景には、学校環境における特定の要因が大きく関係していると指摘するのは、精神科医の本田秀夫氏です。特に、学校が子どもたちに課す「ノルマ化」と、期待に応えられない子どもへの「ダメ出し」が、不登校という結果に繋がっていると考えられています。本稿では、書籍『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』からの抜粋と再構成に基づき、現代の学校教育が抱える課題と、それが子どもたちに与える影響について深く掘り下げます。
不登校児童が増加する中、孤独を感じる子どもの姿。文部科学省のデータは全国で100万人近い不登校児の存在を示唆しています。
不登校増加の複合的要因と学校環境の影響
不登校の背景は、個々の子どもによって非常に多様であり、その原因は一つだけではありません。多くの場合、学校での人間関係や学習の悩み、あるいは学校以外の要因など、複数の複雑な要素が絡み合っています。子どもが不登校になった際、その子の具体的な状況を理解することは非常に重要ですが、一方で、不登校児童生徒が全体的に急増している現状に鑑みると、共通する環境的な要因にも目を向ける必要があります。本田秀夫氏は、現在の学校生活に「ノルマ化」と「ダメ出し」が過剰に存在することが、この全体的な不登校増加の一因になっていると警鐘を鳴らしています。
小学校「入学のしおり」に見る「完璧」への期待
小学校の「入学のしおり」に、新入生が身につけておくべきこととして、以下のような項目が挙げられているのを目にすることがあります。例えば、「人に呼ばれたら『はい』とはっきり返事ができる」「人の話をしっかり聞ける」「自分の名前や家族の名前が言える」「自分の名前(ひらがな)を読める」「自分で身の回りの始末ができる」「自分で洋服を脱いだり着たり、脱いだものをたたむことができる」といった内容です。これらは入学までに家庭で教えてほしいという意図ですが、中にはこれらの行動が難しい子どももいます。大人でさえ、人の話を十分に聞かなかったり、脱いだ服をきちんとたたまない人もいることを考えると、小学1年生向けの「入学のしおり」としては、その基準が厳しすぎると言わざるを得ません。
ここで挙げた項目はあくまで一例に過ぎませんが、近年の学校では、このような行動が暗黙の「ノルマ」となり、達成できない子どもは「ダメ出し」される傾向が見られます。苦手なことは克服するよう目標設定され、それができなければさらに指摘を受けるというサイクルです。現代の子どもたちは、幼い頃から比較的高いハードルを設定され、それをクリアできないと認められないという雰囲気の中で過ごしていることがあります。このような学校や学級の雰囲気が、不登校を引き起こす環境的な要因となっている場合があるのです。学校のカリキュラムは平均的な子ども向けに作られているとされますが、こうした例を見ると、今の学校は平均的な子どもであっても、わずかに「背伸び」をしないと標準に到達できない環境になっているように感じられます。
まとめ:子どもたちの「居場所」を守るために
不登校問題の根底には、学校が意図せずとも子どもたちに与える過度な期待とプレッシャーが存在しています。特に「ノルマ化」と「ダメ出し」は、発達障害やグレーゾーンの子どもたちだけでなく、すべての子どもたちの心理的負担を増大させ、学校への適応を困難にしている可能性があります。不登校の増加は、単なる個人の問題ではなく、教育システムと社会全体で向き合うべき課題です。子どもたちが安心して学び、自分らしく成長できる環境を再構築することが、今、最も求められています。
参考文献
- 本田秀夫 著, 『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』, 集英社 (出典書籍名)
- 文部科学省, 「不登校児童生徒の実態調査」関連資料 (調査元)