米陸軍、在日部隊改編で「多領域司令部」設置を検討 – 対中抑止力強化へインド太平洋戦略の要

米国政府が、在日米陸軍の組織を改編し、陸海空、宇宙、サイバーを含む複合的な戦闘能力を持つ「マルチドメイン・タスクフォース(MDTF)」の司令部機能を日本に設置することを検討していることが明らかになりました。これは米陸軍が推進する大規模な組織改革の一環であり、中国の軍事的脅威が増大するインド太平洋地域における米軍の作戦能力を強化し、対中抑止力を高める狙いがあります。

マルチドメイン・タスクフォース(MDTF)とは

MDTFは、ミサイルを主体とした長距離精密火力に加え、サイバー戦や電子戦といった複合的な能力を兼ね備えた部隊で、2017年に米陸軍によって創設されました。これらの部隊は、中国が米軍の接近を阻止し、活動領域を拒否する「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略に対抗するため、ハワイへの配備をはじめ、その増設が進められています。MDTFは、現代の複雑な戦場において、複数の領域で同時に優位を確保することを目指しています。

インド太平洋地域の安全保障強化に向けた米軍の戦略的展開インド太平洋地域の安全保障強化に向けた米軍の戦略的展開

在日米陸軍改編と新たな司令部機能

今回、米陸軍は実戦部隊であるMDTFを効果的に指揮するため、新たに二つの「マルチドメイン・コマンド(多領域司令部)」を発足させ、作戦機能をさらに強化する方針です。具体的には、第一と第三のMDTFを指揮する司令部を米西部ワシントン州の基地に設置します。そして、既存の在日米陸軍を改編する形で設置される多領域司令部には、新たに編成される第四MDTFの指揮を担わせる計画が進められています。第四MDTFが実際にどの国に駐留するかは現時点では明確になっていませんが、現在の在日米陸軍が小規模で管理機能が中心であることから、実戦部隊は日本国外に駐留し、日本にはその作戦を指揮する司令部が置かれる可能性が高いとみられています。

アジア太平洋地域における戦略的意義

MDTFがアジア地域に展開することで、例えば「台湾有事」のような緊急事態発生時に、長距離精密火力を用いて中国軍の艦隊と交戦し、中国軍による海上および航空優勢の確保を阻止する上で極めて有利になると考えられています。有事の際にMDTFが展開する可能性のある韓国やフィリピンなどの同盟国に近い日本に司令部を置くことは、アジア全体での米軍の作戦能力を飛躍的に強化し、中国に対する強力な抑止力を構築する上で不可欠な戦略的措置となります。

太平洋陸軍(ハワイ)は産経新聞の取材に対し、在日米陸軍の改編による多領域司令部設置に関する議論が行われていることを認めつつも、「現時点で具体的なスケジュールはない」と説明しました。同時に、「米陸軍は効率性を向上させるため、指揮統制の構造の簡素化を進めている」と述べ、今回の動きがより迅速かつ効果的な軍事作戦遂行を目指す広範な取り組みの一環であることを示唆しました。

参考文献