2006年8月25日、福岡市で発生した飲酒運転事故は、一家5人が乗る車が追突され、幼い3人の子どもたちが命を落とすという悲劇を引き起こしました。この事故から19年が経とうとする今、遺族である母親の大上かおりさん(48歳)が改めて心境を語り、「今も子どもたちを愛し続けている。失った悲しみはずっと変わらない」と深い悲しみを明かしました。この痛ましい飲酒運転事故は、社会に飲酒運転の危険性と命の尊さを訴え続けています。
福岡飲酒運転事故で命を奪われた大上かおりさんの長男紘彬ちゃん、長女紗彬ちゃん、次男倫彬ちゃんの在りし日の写真
家族を襲った悲劇:カブトムシ採りの帰り道
事故は2006年8月25日の夜に発生しました。夕食後、「今年最後のカブトムシを捕りに行こうよ」という子どもの声に誘われ、大上さん一家5人は車で自宅を出発しました。目的のカブトムシ一匹を捕まえ、和やかな雰囲気の中、帰路についていたその時でした。午後10時50分頃、福岡市東区の橋に差し掛かったところで、突然後続車に追突され、一家の車はそのまま海へと転落しました。
大きな衝撃の後、車内は瞬く間に海水であふれ、大上さんは何が起きたのか全く理解できなかったと当時を振り返ります。割れたフロントガラスからようやく車外に出た際、初めて車ごと海に落ちた状況を悟ったといいます。
暗闇の海で必死の救助活動
後部座席で眠っていた幼い子どもたちのことを思い出し、大上さんは沈んでいく車に何度も潜りました。暗い海中で必死に手探りで子どもたちを捜し、まず長女の紗彬(さあや)ちゃん(当時1歳)を車から助け出しました。再び潜水し、次男の倫彬(ともあき)ちゃん(当時3歳)を救出することに成功しました。
しかし、さらに2回ほど潜って長男の紘彬(ひろあき)ちゃん(当時4歳)を捜しましたが、見つけることはできませんでした。その時、ふと気づくと、救い出した2人の子どもを抱えたまま、夫の哲央さん(52歳)が溺れかけていました。「ヒロー!」と長男の名前を叫び、「助けてあげられなくてごめんね」と謝りながら、大上さんは残る2人の子と夫の救助に向かいました。病院に搬送された倫彬ちゃんと紗彬ちゃんは、残念ながら亡くなりました。
悲しみを乗り越え、命の尊さを伝える活動へ
事故後、大上さんの心を支えたのは、紘彬ちゃんが通っていた幼稚園の文集に綴られていた園長の言葉でした。「今度生まれてくるときは、また、このやさしいお父さん、お母さんを選んでくるのでしょう」。この言葉に勇気づけられ、大上さんは絞り出すように「天国で3人とまた会う日まで、精いっぱい頑張って生きたい」と語りました。
今年8月19日には、事故後に生まれた4人の子どもたちを連れ、初めて事故現場を訪れました。「自分自身の命を大事にして楽しい人生を送ってほしい」という願いを込めて、子どもたちを連れて行ったそうです。亡くなった子どもたちと育てるつもりだったというヒマワリを献花し、冥福を祈りました。
また、今年、福岡県警からの依頼で、大上さんは事故後初めて「命の尊さ」をテーマに講演を行いました。「失った命の悲しみについて、当事者や母親の立場から伝えていきたい」。飲酒運転によって苦しみながら命を落とした我が子のこと、そして今も心を痛めている親がいることを社会に知ってもらうため、大上さんはこれからも飲酒運転撲滅に向けた活動を続けていく決意です。
この悲劇は、飲酒運転が引き起こす取り返しのつかない結果を私たちに改めて突きつけます。飲酒運転は決して許される行為ではありません。私たちは大上さんの活動を支援し、二度とこのような悲しい事故が起きないよう、社会全体で命の尊さと交通安全への意識を高める必要があります。