市街地でのクマ出没対策強化:「緊急銃猟」制度開始と住民安全確保の課題

近年、日本各地でクマによる人的被害が深刻化する中、市町村の判断で市街地でのハンターによる発砲を認める新たな「緊急銃猟」制度が9月から開始されます。この制度は、人身被害の拡大を食い止めるための重要な一歩と期待される一方で、住民の安全確保や実効性には依然として多くの課題が残されています。特に、人口密集地での銃器使用に伴うリスク管理は、自治体や関係機関が直面する喫緊の課題となっています。

北海道の国道脇でシカを捕食するヒグマ北海道の国道脇でシカを捕食するヒグマ

ヒグマの市街地出没と改正鳥獣保護法

環境省の発表によると、今年度7月末までにすでに55人がクマによる人的被害に遭っており、昨年度年間被害者数(85人)を上回るペースで推移しています。北海道内ではヒグマの市街地への出没が増加傾向にあり、今年7月には福島町で新聞配達中の50歳代の男性がクマに襲われ死亡するという痛ましい事故も発生しました。このような状況を受け、4月に成立した改正鳥獣保護法に「緊急銃猟」の規定が盛り込まれました。

これまでの制度では、市街地にクマが出没しても、現場の警察官の命令などがなければ原則として発砲が許可されませんでした。警察の判断を待つ間にクマを見失ったり、さらに被害が拡大したりするケースも少なくありませんでした。9月以降は、市町村から委託を受けたハンターが、現場の状況判断に基づき発砲できる裁量を持つことになります。この法改正は、迅速な対応を可能にし、さらなる人的被害を防ぐための重要な対策強化として位置づけられています。

「緊急銃猟」訓練の現場と安全確保の課題

新制度の運用開始に備え、各市町村は地元猟友会や警察と連携し、実践的な訓練を重ねています。8月21日に北海道下川町で行われた環境省主催の訓練では、高校や民家近くの河川敷にヒグマが現れたという想定のもと、町職員が住民の避難誘導や周辺の通行制限を実施。その後、ハンターが土手の上から河川敷に向けて射撃するという一連の緊急銃猟手順が確認されました。参加した70歳代のベテランハンターからは「発砲までの段取りが多く、その間にクマが移動してしまうのではないか」との懸念が示されましたが、環境省鳥獣保護管理室の佐々木真二郎室長は「事前に段取りを確認しておくことが、いざという時の機動的な動きにつながる」と強調しました。

北海道下川町で行われた緊急銃猟訓練で発砲手順を確認するハンターたち北海道下川町で行われた緊急銃猟訓練で発砲手順を確認するハンターたち

しかし、住民の安全確保には依然として多くの課題が伴います。環境省は7月、住民避難や通行制限などの事前の安全確保策を講じること、銃弾が対象を貫通しても止まるよう斜面などを背後に発砲することなどを定めた指針を作成しました。しかし、実際に市街地で発砲する際には、流れ弾のリスクや、迅速かつ大規模な住民避難・通行制限の人手確保が大きな問題となります。8月25日に富山県総合運動公園で行われた訓練では、富山市が園内の道路の通行を実際に制限し、「かなりの人手がかかることがわかった。休日だったら人手の確保はさらに大変になるかもしれない」と担当者が語るように、特に休日などには十分な人員を確保することが困難になる可能性が指摘されています。

新制度運用への期待と今後の展望

「緊急銃猟」制度の導入は、クマによる人的被害が止まらない現状において、地域住民の生命と財産を守るための不可欠な対策です。市町村に与えられた裁量権は、現場での迅速な判断と対応を可能にし、被害を最小限に抑える上で重要な役割を果たすでしょう。しかし、その運用には、徹底した安全管理と地域社会との協力が不可欠です。

今後、各自治体は、環境省の指針に基づき、訓練を通じて具体的な対応マニュアルを確立し、住民への周知と理解を深める努力が求められます。また、猟友会や警察、消防、そして地域住民が一体となって、緊急時に連携できる体制を構築することが急務です。この新制度が真に機能し、安全で安心な地域社会を実現するためには、継続的な改善と多角的な視点からの対策強化が不可欠と言えるでしょう。

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