コロナ禍からの経済回復が遅れる中、日本とドイツの最低賃金政策には明確な違いが見られます。本記事では、経済停滞下で積極的な賃上げを進めるドイツと、名目賃上げの裏で実質賃金が低迷する日本の現状を比較検証します。物価高騰が家計に与える影響にも焦点を当て、その背景と課題を深く考察します。
経済停滞下のドイツ:積極的な最低賃金引き上げ
コロナ後の経済回復が遅れるドイツは、2023年と2024年に連続でマイナス成長を記録しました。2025年第1四半期にわずかにプラス成長が見られたものの、第2四半期はマイナス0.3%となり、ドイツ連邦銀行は8月21日付月報で、第3四半期もゼロ成長となる可能性が高いとの見通しを示しています。仮に3年連続マイナス成長となれば、東西ドイツ統一後初の憂慮すべき事態であり、トランプ関税の影響も懸念されるなど、経済見通しは依然として不透明です。
このような経済状況にもかかわらず、連邦議会選挙を経てキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が第1党となり、5月にメルツ氏が首相に就任。そのわずか2カ月後、ドイツ最低賃金委員会は、最低賃金を2026年から13.9ユーロ、2027年には14.6ユーロ(円換算で約2500円)まで引き上げるよう政府に勧告しました。これは米ニューヨーク市の最低賃金16.5ドル(約2400円)に匹敵する水準です。経済が停滞しているにもかかわらず、国民の購買力を維持しようとする、明確な労働政策の意図が伺えます。
「貧乏国」日本の実情:名目賃上げと実質賃金の乖離
一方、日本では8月4日に2025年度の最低賃金目安が、厚生労働省の審議会により全国平均1118円に引き上げられました。これは前年の1055円から63円増で、全都道府県で初の1000円超えとなり、過去最大の上げ幅(伸び率6%)です。昨年、今年と春闘の賃上げ率が5%上げと評価されていたことから、この最低賃金引き上げは「大幅」なものと言えるでしょう。
しかし、この1118円という水準は、ドイツが目指す2027年の2500円の半分にも満たず、いかにも「貧乏国」日本を象徴しているかのようで寂しさを感じさせます。
さらに深刻なのは食料品価格の高騰です。昨年10月の最低賃金引き上げ以降、今年6月までの食料品平均価格は前年比6%超の上昇を記録しています。特に、7月の「生鮮食品を除く食料」の上昇率は前年同月比でなんと8.3%に達しました。所得の低い家庭ほど食料品の消費が家計に占める割合が高いため、名目賃金の上昇が物価高騰に追いつかず、実質賃金は伸びるどころか実質的な「大幅賃下げ」となっているのが現状です。
「激安の日本」を体験する訪日外国人観光客たち。
結論:日本の経済的課題と展望
経済停滞下で積極的な賃上げを図るドイツに対し、日本では名目賃上げが物価高騰に追いつかず、実質賃金が減少しています。食料品価格高騰が低所得世帯を直撃し、「貧乏国」化の懸念を強める中、日本は国際競争力を保ち、国民生活を向上させるため、実質的な購買力向上に繋がる政策を早急に講じる必要があります。