沖縄の「二つの和解」が問う日本の使命:中国の動きと地政学的重要性

沖縄は、沖縄戦、米軍統治、大規模な米軍基地の存在といった日本本土とは異なる歴史を歩んできました。この複雑な経緯から、今も「本土」および「米国」との間に摩擦やわだかまりが残り、「二つの和解」の深化は日本の国家としての重要な使命と言えるでしょう。戦後80年を迎えようとする現代において、中国の覇権主義的行動が沖縄周辺地域を主要な舞台の一つとしており、これら二つの和解が進まなければ、中国がその間隙を突き、地域の軍事的、政治的な安定が揺らぐ懸念が高まっています。

中国空母の同時展開と「米空母迎撃演習」の示唆

中国軍の台湾周辺での活動が活発化する中、2025年5月下旬から6月にかけて、中国海軍の空母「遼寧」と「山東」の2隻が日本周辺の太平洋上に初めて同時展開しました。この事態は、地域情勢の緊迫化を明確に示しています。読売新聞は7月18日付の1面トップ記事で、日本政府関係者の分析として、この同時展開が「米空母打撃群の迎撃を想定した演習」であったと報じました。演習では、「遼寧」が太平洋沖の東から西へ進み中国の防衛ライン「第2列島線」を越えて中国方面に向かい、一方の「山東」は沖縄本島の南から東へ移動し、「遼寧」を迎え撃つ動きを見せました。これは、「遼寧」が米空母の役割を、「山東」が中国空母の役割を担い、米空母迎撃の模擬演習を行ったことを意味します。注目すべきは、この演習に向かう際、「遼寧」がまず沖縄本島と宮古島の間に位置する宮古海峡を通過して太平洋へ抜けていた点です。

太平洋への「玄関口」宮古海峡の戦略的価値

宮古海峡は、中国海軍にとって太平洋への軍事的に極めて重要な「玄関口」です。幅は約250キロメートル、最大水深は1000メートルを超え、潜水艦も「深海ルート」で通過できる戦略的な航路として知られています。海峡の中心部は公海でありながら、行政的には沖縄県の域内に位置しており、その地政学的な重要性は計り知れません。中国は、こうした軍事的・地政学的な視点から沖縄を重視するだけでなく、歴史的にも琉球王国の時代から沖縄と深い関わりを持ち、近年は沖縄県内の動向への関心を一層高めています。

沖縄への高まる中国の関心:歴史と地政学の視点

沖縄が中国から受ける多角的な関心を肌身で感じてきた人物が、1998年から2006年まで2期にわたり沖縄県知事を務めた稲嶺恵一氏です。筆者は昨夏、読売新聞全国版で稲嶺氏の回顧録「時代の証言者」を連載しました。これに全面的に加筆し、稲嶺氏との共著として、戦後80年の沖縄と日米中関係を深く考察した『苦悩の島・沖縄 二つの和解』(ウェッジ社)が8月25日に刊行されます。本書では詳細が語られますが、特に特筆されるのは、沖縄県が歴史的に中国・福建省との交流が深いことです。

2000年7月、沖縄県糸満市の平和の礎で黙祷するクリントン米大統領と稲嶺恵一知事2000年7月、沖縄県糸満市の平和の礎で黙祷するクリントン米大統領と稲嶺恵一知事

「二つの和解」を深く追求し、地域に安定をもたらすことは、中国の覇権主義的な動きが活発化する現代において、日本の国家としての喫緊の課題であり、沖縄の未来、ひいてはアジア太平洋地域の平和と安定に直結しています。


参考文献

  • Wedge Online, 「沖縄は有事の際の滑走路が足りていない」
  • 読売新聞, 2025年7月18日付, 1面トップ記事
  • 稲嶺恵一・筆者共著, 『苦悩の島・沖縄 二つの和解』, ウェッジ社, 2025年8月25日刊行