日大重量挙部元監督・難波謙二容疑者逮捕:学費詐取の内部告発が動かした「一本の電話」

日本大学重量挙部の元監督である難波謙二容疑者(64)が、6月10日、詐欺容疑で逮捕された。難波容疑者は、スポーツ推薦で入学し、学費が免除されている奨学生に対し「授業料」などと称して学費の振り込みを指示し、合計で少なくとも5300万円以上を騙し取ったとされている。この不正を明るみに出し、逮捕のきっかけを作ったのは、今年3月まで日本大学三軒茶屋キャンパスの管理マネジメント課で会計係を務めていた山田俊太郎さん(39・仮名)による内部告発だった。本件は、大学スポーツ界における不正問題として社会的な注目を集めている。

内部告発の引き金となった「謎の電話」

山田さんの内部告発は、2024年5月22日に日大三軒茶屋キャンパスにかかってきた一本の電話から始まった。重量挙部の一年生部員Aさんの母親からの問い合わせに、たまたま山田さんが対応したのだ。母親は「息子が入学する前、重量挙部に学費として銀行振込で100万円以上支払いました。ですが、さらに学費引落用の銀行口座を登録する必要があるのでしょうか?」と質問した。

Aさんはスポーツ科学部に入学したばかりの奨学生であり、授業料と施設設備資金が免除される第二種奨学生であった。三軒茶屋キャンパスでは、数年前から学費の支払方法を振込用紙による銀行振込から口座振替に変更しており、奨学生を含むすべての学生に口座登録を求めていた。しかし、Aさんの母親は、既に大金を振り込んでいるにもかかわらず、再び口座登録を求められることに二重払いの懸念を抱いたという。

日大重量挙部元監督・難波謙二容疑者の逮捕時の様子。学費詐取容疑で注目を集める。日大重量挙部元監督・難波謙二容疑者の逮捕時の様子。学費詐取容疑で注目を集める。

本来、Aさんのような奨学生は学費を支払う必要がないため、山田さんはこの問い合わせに「これはおかしい」と直感した。なぜなら、会計係の部署では、難波元監督を含む各競技部の監督らが、奨学生には学費の振込用紙を送付しないよう、毎年入学シーズンになると念を押すのが恒例となっていたからである。日大での8年間の勤務経験を持つ山田さんにとって、この電話は過去の監督らの言動と明確に矛盾しており、組織的な不正の可能性を強く示唆するものであった。

大学スポーツ界の信頼回復に向けた課題

今回の難波元監督の逮捕は、日本大学における一連の不祥事に加え、大学スポーツ界全体における指導者の倫理観や運営の透明性が改めて問われる事態となった。奨学生制度は、経済的な理由で学業やスポーツを継続することが困難な学生を支援するための重要な制度である。その根幹を揺るがす学費詐取という行為は、学生の将来を奪うだけでなく、大学への信頼を著しく損ねるものである。内部告発が不正発覚の重要な役割を果たしたことは、組織内部の健全な監視体制と、それに耳を傾ける姿勢の重要性を示している。今後、大学側には徹底した調査と再発防止策の実施が強く求められ、大学スポーツの健全な発展に向けた取り組みが急務となるだろう。

参考文献: