兵庫県知事の斎藤元彦氏(47)を巡る情報漏洩疑惑が、新たな局面を迎えている。元県民局長の私的情報が外部に漏洩した問題で、斎藤知事らに対する告発状が神戸地方検察庁に受理されたことが明らかになり、司法のメスが入る可能性が高まっている。本件は、地方公務員法における守秘義務違反が問われる重大な事案として、その捜査の行方が注目されている。
知事の説明と食い違う事実
事の発端は、6月27日に「NHK党」の立花孝志党首(58)のX(旧Twitter)に、元県民局長のパソコン内のフォルダー写真がアップされたことだった。この投稿について、斎藤知事は7月2日の定例記者会見で「どういった投稿がされたということは承知していない」と回答。しかし、8月18日の兵庫県議会総務常任委員会では、県の人事課長が「日付は忘れたが報告はしている」と述べ、さらに「7月2日付でプラットフォームの事業者に対し有害情報の削除を申し出ている」と説明した。
この人事課長の発言は、会見の前には斎藤知事の耳に情報が届いていた可能性を示唆し、知事の「承知していない」という回答との間に矛盾が生じている。8月26日の定例会見で記者からこの矛盾を問われると、斎藤知事は「適切だったと思っている」「県保有情報の漏洩について報告は受けたが、具体的な内容は見ていない」と釈明した。漏洩した情報の内容を確認しない上司は異例であり、知事の対応に疑問の声が上がっている。
兵庫県知事の斎藤元彦氏。情報漏洩問題で神戸地検に告発状が受理され、厳しい局面を迎えている
神戸地検が告発状受理、疑惑は新たな局面に
8月20日、斎藤知事をさらに追い詰める報道が飛び込んできた。元県民局長の私的情報漏洩問題に関して、地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで、6月に斎藤知事、片山安孝・前副知事、井ノ本知明・前総務部長の3人に対して提出されていた告発状が、神戸地検によって受理されたと報じられたのだ。
この問題では、井ノ本氏については県が設置した第三者調査委員会が情報漏洩を認定しており、県もこれを認め本人に処分を下している。地方公務員法に詳しい元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、「地方公務員法34条にある守秘義務違反の疑いは濃厚です。違反した場合は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金となっています。井ノ本氏の秘密漏洩に関しては県も認めて処分しているので、その通りの捜査結果が出れば刑事処分の可能性があります」と指摘する。
知事の”指示”と地方公務員法62条の適用可能性
しかし、本件の焦点は、井ノ本氏の守秘義務違反だけでなく、第三者委員会が指摘した「漏洩は知事や前副知事の“指示”によって行われた可能性が高い」という点にある。もちろん、斎藤知事はこの指示を否定している。
西脇弁護士は、「ポイントは井ノ本氏が一人で勝手にやったことなのか、それとも知事や職場の上司の指示があって、それに従ってやったのか、これが大きな分かれ目になると思います」と解説する。もし指示があった場合、指示した側には地方公務員法62条が適用される。同条は、守秘義務違反などの違法行為を「企て、命じ、故意にこれを容認し、そそのかし、又はそのほう助をした者」を処罰の対象としている。西脇弁護士によれば、「斎藤知事の“指示”があったのなら、知事と総務部長の上下関係からすれば、この条文の『命じ』に当たると考えるのが普通。最低でも『そそのかした』になるはず。どちらにしても地方公務員法違反の可能性大です」と見解を述べている。
「具体的指示なし」で逃げ切れるか?「容認」の拡大解釈
一方で、片山元副知事は「私は別の職員から知事の指示があったと聞きましたが、知事は個別具体の指示をしたのではなく、議会根回しを包括的に了解したものと受け止める」と反論。また、県の幹部も「誰とどのように情報共有をしておくというような具体的なことはなかった」と、知事からの『具体的な』指示はなかったと口をそろえる。
この「具体的指示なし」で斎藤知事が責任を逃れることができるのかが問われるが、西脇弁護士は地方公務員法62条の対象が広いと指摘する。「この条文では、違法行為を『故意にこれを容認』しただけでも処罰の対象になります。違法行為が行われることを知りながら上司が注意を促す程度にとどまり、適切な職務命令を発しなかったら『容認』となり、同罪になりうるのです」と説明。元県民局長の私的情報は、県当局も「秘密」であることを公認しているため、その秘密を外部に「情報共有」することを「指示」または「容認」したと判断されれば、漏洩先を特定する指示がなくとも、秘密漏洩に関与したと認識されうるとの見方を示している。
斎藤知事を巡る一連の疑惑は、告発状受理によって新たな展開を見せている。いわゆる「難攻不落」と言われる知事だが、今後の捜査によって真相がどこまで解明されるのか、司法判断の進展が強く注目されている。
参考資料
- FRIDAYデジタル: https://friday.kodansha.co.jp/article/310335