ストーカー事件再犯防止策の模索:神戸・世田谷連続殺傷と海外事例

神戸刺殺事件の谷本将志容疑者は、過去に傷害罪やストーカー規制法違反で有罪判決を受け、2022年には執行猶予が付されていた。米国や韓国では性的欲求に基づく性犯罪者に対しGPS装着などの再犯防止プログラムが導入される中、日本での導入が問われている。信州大学特任教授の山口真由氏は、トム・クルーズ主演映画『マイノリティ・リポート』を例に、近年のストーカー殺人事件を分析する。

『マイノリティ・リポート』の問い:犯罪予知の倫理性

映画『マイノリティ・リポート』は、まだ起こっていない犯罪を「予知」し、事前に逮捕するシステムの倫理性を問う。これは、相次ぐストーカー事件においても同様の問いを投げかける。悲劇を防ぐため、犯罪の予兆をどこまで捉え、個人の公平性を確保すべきか。

ストーカー事件の類型と対策

世田谷事件:典型的な元交際相手型

9月1日に世田谷区で発生した事件は、元交際相手によるストーカー事案として最も一般的なパターンだ。警察の介入による警告や禁止命令で大半の加害者は行動を改めるが、一部は裏切られたと感じ、傷害や殺人へとエスカレートする。このごく一部の高リスク層を特定し、警察のリソースを集中できれば、同様の悲劇を防げた可能性は高い。

神戸事件:面識なき加害者の再犯歴

8月20日に神戸市で起こった事件は、被害者との面識がない点でストーカー事案としては珍しい。谷本将志容疑者には見知らぬ女性を執拗に追いかけ回した前歴が複数あり、過去には執行猶予付き判決を受けていた。この種の再犯を防ぐには、行動パターンが予測しにくく、より専門的かつ困難な対策が求められる。

神戸刺殺事件で逮捕された谷本将志容疑者、ストーカー再犯防止の課題を考える神戸刺殺事件で逮捕された谷本将志容疑者、ストーカー再犯防止の課題を考える

海外事例:GPS監視の可能性と課題

谷本容疑者のような再犯防止策として、米国や韓国で導入されている性犯罪者へのGPS器具装着が挙げられる。小児性犯罪者が学校などの施設に近づけばアラートを発する仕組みなどがあるが、神戸のような「好みの女性を追跡」する事件への効果は疑問視される。一方で、谷本容疑者が被害者の勤務先周辺に佇んでいたように、性犯罪者の日常的な行動パターンを解析し、そこから逸脱した不自然な動きを探知できれば、再犯防止に繋がる可能性は残されている。

まとめ:再犯防止と倫理的課題の模索

神戸と世田谷で相次いだストーカー殺人事件は、現行の再犯防止策の限界を示し、多角的なアプローチの必要性を強く訴えかけている。警察のリソース集中や行動解析技術の活用、そして海外事例を参考にGPS監視などの導入も議論されるべきだ。しかし、『マイノリティ・リポート』が示唆するように、犯罪の「予知」と個人の自由、そして容疑者の公平性をどう両立させるかという倫理的な課題もまた、真剣に検討されるべき点である。被害者保護を最優先としつつ、公正な社会を追求しながら実効性のある再犯防止策を社会全体で模索していく必要がある。

参考資料

Yahoo!ニュース