原発事故発生時に推奨される「屋内退避」は、生活インフラ、すなわちライフラインが維持されてこそ成り立つ対策である。しかし、この重要な前提条件に対し、国が「ライフライン管理者・民間事業者の活動は継続されることが期待される」という、実質的に無責任とも取れる姿勢を示していることが、独自入手した非公開会議の議事録から明らかになった。これに対し、地方自治体からは「国が責任を持って対応すべき」との強い懸念が上がっており、避難計画の実効性に対する不信感が募っている。
「屋内退避」の前提条件と国の曖昧な姿勢
原子力災害時における屋内退避は、放射性物質の屋内への侵入を抑制し、被ばくを低減させる重要な手段とされている。しかし、この方法が有効に機能するためには、電気、ガス、水道、通信といった生活インフラが維持されることが不可欠だ。停電すれば暖房や冷房が機能せず、通信が途絶えれば情報収集や安否確認もできない。しかし、国の指針には、その維持管理に関して「ライフライン管理者・民間事業者の活動は継続されることが期待される」とあり、具体的な責任の所在や支援体制が曖昧なままだ。これは、有事の際に誰が、どのようにしてこれらのインフラを確保するのかという、最も根源的な問題に国が明確な回答を避けていることを意味し、現場の自治体からは「国が主体となって責任を果たすべき」との声が上がっている。
能登半島地震が突きつけた現実:志賀原発周辺の脆弱性
昨年元日に発生した能登半島地震(マグニチュード7.6)は、原子力災害時の避難計画が抱える脆弱性を露呈するきっかけとなった。甚大な被害が広範囲に及ぶ中、震源に近い北陸電力志賀原発(石川県志賀町)周辺も例外ではなかった。家屋の倒壊、道路の寸断、そしてモニタリングポストの一部通信障害など、災害インフラの脆弱性が浮き彫りになったのだ。大地震によって原子力事故が発生した場合、家屋が倒壊したり、避難経路が遮断されたりする状況では、たとえ放射線量が低いと判断されても、「屋内退避」は物理的に不可能となる。この現実は、従来の避難計画、特に屋内退避の運用が、大規模自然災害を十分に考慮しているのかという根本的な問いを突きつけている。
志賀原発への道に立つ原子力施設避難計画関連の看板。2024年1月25日、能登半島地震後の石川県志賀町の状況を示す。
表と裏の議論:「検討チーム」と非公開会議の“ホンネ”
能登半島地震を受け、原子力規制委員会は「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム」という有識者会議を設置した。規制委員会、内閣府、自治体関係者(宮城県、敦賀市)、外部専門家からなるこのチームは、計9回の公開会合を経て今年3月末に報告書をまとめた。しかし、この“表”の会議の裏では、密かに非公開会議が開催されていた。調査報道記者・日野行介氏が情報公開請求によって独自に入手したこの非公開会議の議事録からは、国の“ホンネ”が垣間見える。かつて原発避難計画を担当した伴信彦委員(原子力規制委員会)も、任期満了時の記者会見で、自治体から「こういう場合はどうするのか」「そんなこと言われてもできない」といった問い合わせがあったことを明かしており、規制委員会として「なぜこういうスキームにしているのか、できるだけ伝えていく努力が必要」と述べている。この発言は、国と自治体の間で屋内退避を巡る認識の乖離が存在し、その根底にはインフラ維持に対する国の曖昧な姿勢があることを示唆している。
結論:実効性ある避難計画に向けた国の明確な責任が急務
今回の非公開会議の議事録から明らかになった国の姿勢は、原子力災害時の「屋内退避」が抱える根深い問題、すなわち、その実効性を担保するライフライン維持の責任が曖昧なままであるという現状を浮き彫りにした。能登半島地震の教訓は、大規模災害と原発事故が複合的に発生した場合の対策が、まだ十分に確立されていないことを示している。住民の安全を最優先に考えるならば、国は「期待」に終わらせるのではなく、ライフライン維持に対する具体的な責任を明確にし、自治体と協力して実効性のある避難計画を構築することが急務である。
参考文献:
- Yahoo!ニュース: 「原発事故時に「屋内退避」は本当に機能するのか?国が自治体から不信を買った一文を独自入手した非公開会議議事録で暴く」 (2024年10月27日)





