夫婦が離婚する際、最も重要な検討事項の一つが子どもの存在です。離婚後、子どもの戸籍や姓がどうなるのかは、多くの人々にとって複雑で分かりにくい問題です。日本の戸籍制度は「氏」、すなわち「家」を構成原理としているため、離婚によって親の姓が変わっても、子どもの戸籍や姓は自動的には変動しないという特徴があります。本稿では、この日本の家族制度の複雑さを、具体的なケースを交えながら解説します。
離婚が子どもの戸籍と姓に与える影響
サザエさん一家のケースで考える
例として、アニメ『サザエさん』のサザエ・マスオ夫妻が離婚した場合を想定してみましょう。サザエが離婚すれば、彼女は旧姓である「磯野」に戻り、実家である磯野波平を筆頭者とする戸籍に復籍します。マスオはフグ田家を出ることになりますが、タラちゃんはサザエが引き取ることになるでしょう。
タラちゃんの戸籍と姓は変わらない
ここで重要なのは、親が離婚しても、子どもの戸籍と姓は自動的には変わらないという点です。タラちゃんは生まれた時から父マスオを筆頭者とする戸籍に入っているため、離婚後に母サザエが引き取ったとしても、タラちゃんはマスオの戸籍に残ったままとなります。もちろん、姓名も変わらず「フグ田タラオ」のままです。これは、子が一度戸籍に収まり「氏」を得たら、親の離婚によって自身の「氏」を変更しない限り、親のいずれかを筆頭者とする戸籍に登録されたままであるという戸籍制度の原則によるものです。
離婚後の子どもの戸籍について考える家族のイメージ
「磯野タラオ」になるための煩雑な手続き
姓変更の申し立てと家庭裁判所の役割
もしサザエが、タラちゃんを「磯野家」の一員として育てたいと望み、タラちゃんの姓をフグ田から磯野に変更したい場合、かなり煩雑な手続きが必要になります。具体的には、まず家庭裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てなければなりません。この申し立て人は子自身ですが、15歳未満の子どもの場合は、親権者である法定代理人(このケースではサザエ)が手続きを行います。
「入籍届」の提出と戸籍の変更
家庭裁判所から氏の変更許可が下りた後、次に役所に「入籍届」を提出します。この「入籍届」は、しばしば婚姻届と混同されがちですが、実際には全く異なるものです。この手続きを経て、ようやくタラちゃんは「磯野タラオ」として、母サザエと同じ戸籍に入ることができるのです。
結論
このような煩雑な手続きを要することは、日本の戸籍制度が現実の家庭生活と乖離している証左と言えます。ここには、「氏が同じであってこその家族」という、かつての「家制度」の名残が色濃く残っていると解釈できるでしょう。離婚後の子どもの姓や戸籍に関するこれらの複雑な手続きを理解することは、現代社会における家族のあり方を考える上で不可欠です。
参考文献: 遠藤正敬『戸籍の日本史』(インターナショナル新書)の一部を再編集したもの。




