今年8月にフィリピンの首都マニラで日本人男性2人が射殺された事件を巡り、日本の捜査当局が本格的な動きを見せている。11月11日、警視庁と警察庁の「暴力団対策課」に所属する捜査員ら6人が現地に派遣されたのだ。この派遣は、単なる強盗殺人として報じられた事件の背景に、日本の反社会勢力、特に九州の暴力団関係者による「粛清」が潜んでいる可能性が高まったことを示唆している。日本とフィリピン両国の連携により、事件の全容解明が急がれる。
邦人射殺事件の概要と報道の変遷
事件は8月15日午後10時45分頃、マニラの繁華街マラテで発生した。タクシーを降りた日本人男性2人が男に拳銃で頭部を一発ずつ撃たれ、命を落とした。犯行グループは被害者のバッグを奪い、バイクで逃走したとされる。昨年10月以降、マニラでは日本人を標的とした強盗事件が20件以上発生しており、当初、日本のメディアはこれを「日本人旅行客が強盗殺人の被害にあった」として大々的に報じた。
しかし、事件発生からわずか3日後の18日、実行犯が現地警察に逮捕されると、報道のトーンは一変した。テレビでの扱いは明らかに縮小し、事件報道自体も規模が小さくなった。9月2日に被害者2人の遺体が日本に帰国した際も同様の状況だった。この変化の背景には、逮捕された実行犯の供述から、事件が日本の反社会勢力による「粛清」であった可能性が濃厚になったことが挙げられる。
実行犯の供述と強盗偽装の疑い
現地ジャーナリストによると、逮捕されたのはアルバート・マナバット容疑者(50)とアベル・マナバット容疑者(63)の兄弟だ。兄のアベル容疑者は逮捕直後、「日本人に依頼されて実行した」と供述し、報酬として900万ペソ(約2300万円)が約束され、前金として1万ペソ(約2万6000円)を受け取ったと明かした。その後、両容疑者は供述を否認し、9月に始まった裁判では無罪を主張しているが、フィリピン当局は防犯カメラ映像などの証拠を基に、有罪に持ち込めると自信を見せている。
羽田空港からマニラへ向かう捜査員たち
さらに、実行犯たちの行動には強盗目的とは異なる不自然さが確認されている。アベル容疑者は被害者2人に雇われたガイドとして「案内役」を担い、ホテル前で待機する「実行役」の弟アルバート容疑者ともう一人の仲間の元へ被害者を誘い込んだとみられる。アルバート容疑者らは3時間前から現場で待ち伏せていたという。アベル容疑者はタクシー内から弟に車両ナンバーを伝え、被害者が降りた直後に弟が射殺。その後、弟と仲間はバイクで逃走し、乗り捨てた場所で事前に用意していた服に着替え、さらに逃走を図った。
最も不自然なのは、被害者が身に着けていた数百万円相当のロレックスが手付かずだった点だ。強盗目的であれば、高価な腕時計を奪わないのは不自然である。タクシー運転手の証言によれば、助手席にいたアベル容疑者が電話で「バッグに多額の現金が入っているから奪え」と指示している声が聞かれたといい、現地当局は事件発生当初から強盗目的を偽装していた可能性を視野に入れている。兄アベル容疑者が事件直後、警察に駆け込むべき状況でセブンイレブンでビールを購入していたことも、その不自然な行動を裏付けるものとなっている。現在、もう一人の仲間は逃走中である。
捜査の行方と今後の展望
今回の日本の捜査員派遣は、マニラ邦人射殺事件が単なる無差別強盗ではなく、より深い背景を持つ組織的な犯行であるとの見方を強めるものだ。フィリピン当局との連携を通じて、事件の「黒幕」とされる日本の反社会勢力の関与がどこまで解明されるかが注目される。両国の捜査が協力することで、被害者の無念を晴らし、国際的な犯罪組織への抑止力となることが期待される。





