早稲田大学がX(旧Twitter)で告知した「弱男祭り2025」が大きな反響を呼び、議論を巻き起こしています。このイベントは、早稲田祭の一環として「弱者男性」を自称する学生たちが白ブリーフ姿で登場するというものでしたが、その内容に対して「早稲田に行ける時点で強者ですよ」「貴族たちの遊び」といった批判的な声が多数寄せられました。本稿では、この「弱男祭り」騒動を起点に、現代の早稲田大学生が抱える「弱者」意識の実態、そして早稲田大学というブランドが持つイメージの変容について考察します。
「弱男祭り」がXで物議を醸す
先日、早稲田大学はXで「『弱男祭り2025』〜弱音叫び〜」というイベントを早稲田祭で開催すると告知しました。イメージ写真では、大隈講堂を背に白ブリーフ姿の5人の男性が両手を広げており、「弱いなら、弱いなりに生きようじゃねえか。年に一度、弱者男性の祭典」と謳われていました。さらに、「早大生5万人の中から選ばれた5人の弱者男性の勇姿を刮目せよ」との文言が添えられています。
この告知に対し、X上では「早稲田に行けてる時点で強者ですよ。貴族たちの遊び」「受かった瞬間から弱者脱出できるからな」といった冷ややかな意見が多数書き込まれ、告知のインプレッション(表示回数)は1000万回を超え、大きな話題となりました。筆者もこれらのコメントと同様に、「人生全般の勝ち組がさらに強いカードを手にしたようなものでは」との感想を抱いた一人です。局部を隠した裸体を悪ノリでさらす学生を「弱者」と呼ぶことには違和感があります。彼らが就職活動で「私がアノ『弱男』です」と面接官に告げ、その面接官が早大OBだった場合、「キミ、度胸あるね。次に進めるようにしとくよ」といった「役得」にあずかれる可能性すら指摘されています。
「弱者」を自称する早大生への疑問
早稲田大学は日本の名門私立大学であり、そこに合格し在籍している時点で、多くの人々からは「強者」と見なされます。学歴社会において、早稲田大学というブランドは将来の選択肢を広げ、優位な立場を築くための強力な武器となるからです。そうした環境に身を置く学生が「弱者男性」を自称し、それをイベントの題材とすることに対し、社会からは「恵まれた環境にいる者の悪ノリではないか」「真の弱者に対する配慮に欠ける」といった批判が寄せられるのは当然の流れと言えるでしょう。この騒動は、現代の若者、特にエリート層とされる学生たちが、自身の立場と社会的な認識との間でどのようなギャップを抱えているのかを浮き彫りにしました。
大隈講堂を背に白ブリーフ姿でポーズをとる早大生たち
早稲田佐賀中高に見る「庶民vsセレブ」の構図
この件を通じて、筆者は自身が住む佐賀県唐津市にある「早稲田佐賀中高」の立ち位置について思いを巡らせました。早稲田大学の建学の祖である大隈重信が佐賀市出身であることから、唐津市に早稲田佐賀中高が設立されましたが、当初、地元唐津の人々の反応は「あのぉ、ウチら鍋島藩ではなく唐津藩なのですが……。大隈重信にはそこまで愛着ないのですが……」といったクールなものでした。
2010年設立の早稲田佐賀の生徒や保護者の姿は、街からどこかいささか「浮いている」ように感じられることもあります。何事かといえば、それは「庶民vsセレブ」という構図です。例えば、唐津が軽自動車社会であるのに対し、同校の親御さんの車は外車だったり、お召し物も高級そうに見えることがあります。学費も決して安くはなく、首都圏や近畿の私立進学校に負けない水準です。
早稲田佐賀の向かいにあったうどん屋のおばちゃんも、かつて寂しそうに漏らしていました。「元々ここは県立唐津東高校やった。そこの先生は出前を頼んでくれたし、生徒さんも来てくれた。でも、早稲田の子はコンビニのお弁当を食べるんや」。筆者のような52歳の男性が行く1500円ほどのランチを提供する店にも、同校の生徒は仲間と訪れますが、他の県立高校の生徒は見かけません。早稲田の生徒が乗る自転車も高そうで、格好良いものが多いのも印象的です。
早稲田佐賀中高の生徒と保護者を描いたイラスト
変わりゆく早稲田大学の「魅力」
早稲田佐賀中高は早稲田大学の系属校であり、高校1学年240人の定員に対し、早稲田大学への推薦枠が140人分あります。きっと多くの生徒が「早稲田大学に行ける」という理由で入学してくるのでしょう。これは、慶應義塾高校を目指すご家庭と動機が似ていると言えます。
旧知の早大OBからは、「反権在野の貧乏人の学校。これが早稲田の魅力だった。それが今や恵まれた家庭の子弟が集まる学校に。暫定的に佐賀に身を置き、心は東京を向いているというのならちょっと寂しいかも」といった述懐が聞かれます。かつての早稲田大学が持っていた、貧しくとも反骨精神に溢れる学生が集う場所というイメージが、時代とともに変化している現状がうかがえます。しかし、早稲田に進んだ学生たちが運転免許を取る際、安上がりな自動車教習合宿を選んで唐津に戻ってくるのは、筆者にとっても喜ばしい限りの出来事だと言います。
今回の早稲田大学の「弱男祭り」騒動と早稲田佐賀中高を巡る地域とのギャップは、早稲田大学がかつての「反骨精神を持った庶民の学府」というイメージから、経済的に恵まれた層が安心して進学できるエリート校へと変貌しつつある現状を浮き彫りにしています。一部の学生が「弱者」を自称することには、現代社会における若者のアイデンティティや、勝ち組と見なされる立場からの自己認識の難しさといった複雑な背景も存在しますが、同時に、その行動が社会からどのように受け止められるかという批判的な視点も不可欠です。本件は、大学という機関、そしてそこで学ぶ学生たちが社会とどのように向き合うべきか、改めて問いかける出来事と言えるでしょう。
参考文献
- 記事情報: 週刊新潮 2025年11月13日号 掲載
- 著者: 中川淳一郎(ネットニュース編集者)、まんきつ(イラストレーター)
- 出典: Yahoo!ニュース





