長年にわたり日本のガソリン価格に影響を与えてきた「暫定税率」が、ついに年内で廃止されることが決定しました。原油価格の高騰と円安が重なり、国民の生活を圧迫する中で、ガソリン価格の引き下げは喫緊の課題となっていました。本記事では、50年間も継続されてきたこの「暫定」措置がどのようにして廃止に至ったのか、その背景と政治的経緯を詳しく解説します。
「暫定」が常態化したガソリン税の背景
ガソリンにかかる税金は、本則では1リットル当たり28.7円ですが、1974年に道路整備財源の確保を目的として導入された「暫定税率」によって、さらに25.1円が上乗せされてきました。この「暫定」という名目とは裏腹に、50年もの長きにわたり延長され続けてきたのです。さらに、ガソリン税を含んだガソリン価格に消費税が課税されるという「二重課税」の問題も指摘されており、その不透明な税制は常に議論の的となっていました。
国民民主党が主導した減税要求
近年、原油価格の高騰と急激な円安が重なり、国内のガソリン価格は記録的な水準にまで上昇しました。これに対し、真っ先に声を上げたのが国民民主党です。同党は、価格高騰時に暫定税率の適用を免除する「トリガー条項」の凍結解除を強く求め、ガソリン減税の実現に向けて尽力してきました。
2023年11月には、当時の岸田文雄内閣が提出した2023年度補正予算案に国民民主党が賛成する際、ガソリン税を引き下げる「トリガー条項」の発動に向けた自民、公明、国民民主の3党による協議を進めることを条件としました。玉木雄一郎代表は「覚悟を持って今回は賛成しましたので、トリガー条項の凍結解除はやりきりたいと思います」と述べていましたが、その後もトリガー条項が発動されることはなく、減税は実現に至りませんでした。国民民主党にとっては、公約が裏切られた形となり、政府への不信感を募らせる結果となりました。
政治情勢の変化と廃止への合意
2024年10月の総選挙で、国民民主党は7議席から28議席へと大きく躍進し、その勢いを背景に12月にはガソリン減税を実現する法案を衆議院に提出しました。この法案は、トリガー条項の凍結解除だけでなく、暫定税率そのものの廃止にまで踏み込んだ画期的な内容であり、その後の野党による暫定税率廃止の動きを加速させるきっかけとなりました。
しかし、当時の石破茂政権はガソリン減税に対して慎重な姿勢を崩さず、2025年3月になっても石破首相は「なるべく早く結論を出してしかるべきものだと思っている」と述べるに留まっていました。事態が大きく動いたのは、2025年7月の参議院選挙で情勢不利と見た自民党の森山裕幹事長が暫定税率の廃止を明言したことでした。それでも自民党は選挙で大敗を喫し、7月30日には与野党間で暫定税率の廃止についてついに合意に至りました。
高市早苗内閣が発足してからは、当初、政府・自民党内から「年内ではなく年度内」といった声も上がりましたが、野党の猛烈な反発により、最終的に年内廃止が確定しました。
衆院予算委員会で答弁する高市首相
8兆円に及ぶ補助金の実態
暫定税率の廃止が議論される一方で、政府はガソリン価格の高騰を抑制するため、補助金を出し続けてきました。2022年1月に「緊急対策」として導入されたガソリン価格激変緩和措置では、石油元売会社に対して価格引き下げ分の補助金が支給されてきました。この補助金の総額はすでに8兆円を超え、年間2兆円以上の公費が元売企業に支払われるという状況が続いていたのです。
結論
50年間も続いてきたガソリン暫定税率の年内廃止は、国民の負担軽減と複雑な税制の見直しという点で大きな意味を持ちます。しかし、その陰で8兆円もの巨額な補助金が費やされてきた事実も忘れてはなりません。今回の廃止は、単なる減税措置に留まらず、エネルギー政策と財源確保のあり方について、改めて議論を深める契機となるでしょう。
参照元: Yahoo!ニュース





