高齢化が急速に進む現代日本において、分譲マンションの管理は新たな社会課題として浮上しています。管理費の滞納、理事のなり手不足、空室化といった問題が顕在化し、居住環境の荒廃を招くリスクが高まっています。本稿では、こうした日本のマンション管理における現状と課題を深く掘り下げ、1990年代に「荒廃区分所有建物」に関する法制度を導入したフランスの事例を参考に、持続可能なマンション管理に向けた法的視座を探ります。
日本のマンションに迫る管理の現状と課題
高齢化進む居住者と「終の棲家」としてのマンション
国土交通省が5年ごとに実施する「マンション総合調査」の令和5年度(2023年度)によれば、マンション居住者の「永住意識」は60.4%と高い水準を維持しています。一方で、居住者の高齢化は顕著であり、30歳以下の居住者が前回調査(2018年度)の7.1%から6.2%に減少したのに対し、70歳以上は22.2%から25.9%へ増加しました。終の棲家としてマンションを選ぶ人や、高齢になってから一戸建てからマンションへ住み替える人が増える中、要介護状態の高齢者や一人暮らしの高齢者が分譲マンション内で増加する傾向にあります。これにより、専有部分や共用部分のバリアフリー対応だけでなく、見守り、生活支援、給食サービスなど、管理組合による高齢者支援の必要性は今後一層増すと考えられます。
経済的・構造的リスクの顕在化
マンション管理全般にとっての喫緊の課題は、年金生活で経済的に余裕のない高齢者世帯の増加に伴う管理費や修繕積立金の滞納リスクです。また、単身で暮らす高齢の区分所有者が死亡し、相続人が不明な場合、管理費請求や集会案内の送付先が分からなくなるといった問題も懸念されます。
このような居住者の高齢化に加え、賃貸化や空室化が進行すると、管理組合の集会への出席率低下、理事のなり手不足、修繕積立金不足、区分所有規約違反者の増加などが生じます。その結果、マンションの管理機能が低下し、いわゆる「マンションの荒廃」が社会問題となる可能性も否定できません。
日本のマンション管理の現状と課題
日本におけるマンション管理の法的枠組みと現実
区分所有法と管理組合の役割
日本では、マンション管理に関して「建物の区分所有等に関する法律」(通称:区分所有法)という民法の特別法が存在します。この法律では、管理の中心は「管理組合」とされており、管理組合は区分所有者全員で構成される団体です。管理組合は年に一度「集会」(総会)を開催し、予算や決算、大規模修繕などに関する重要事項を議決します。
理事会と理事長の責任、そして課題
管理組合の下には理事会が設置され、区分所有者の中から理事が選出され、その中から理事長が選ばれます。国土交通省の標準管理規約によれば、理事長は法律上の最高管理責任者である「管理者」と位置付けられています。日本では、理事長本人が総会資料を作成するのではなく、管理組合から委託を受けた管理会社がその準備を支援するのが一般的です。
理事不足という喫緊の課題と管理機能の低下
現状、まだ事例は少ないかもしれませんが、区分所有者の高齢化などにより、管理組合への参加意欲の低下や出席が困難となる問題が今後増える可能性があります。特に、理事の引き受け手を確保することが困難になる事態が考えられます。
理事には報酬が支払われない上、多くのマンションで輪番制が採用されているため、高齢や健康上の理由で理事に就任できなかったり、就任しても理事会を欠席し続けるケースが増えると、理事不足は深刻化します。その結果、住民による意思決定が滞り、必要な修繕が遅延するなど、マンションの維持管理に支障をきたす事態につながりかねません。
フランス法の知見を日本に活かす可能性
筆者は、日本とフランスの民法、特に物権法を専門としており、フランスのマンション(現地ではアパルトマンと呼ばれます)に対する法的対応は、日本の状況においても大いに参考になると考えています。フランスで1990年代に導入された「荒廃区分所有建物」に関する法制度は、日本のマンション管理が直面する危機的状況を克服し、持続可能な共同住宅の未来を築くための新たな法的視座を提供してくれるかもしれません。
まとめ
日本の分譲マンション管理は、居住者の高齢化、それに伴う経済的リスクの増大、そして管理組合運営における理事不足といった多面的な課題に直面しています。これらの問題は、管理機能の低下を通じて「マンションの荒廃」という社会問題を引き起こす可能性を秘めています。フランスの経験に学び、日本の実情に合わせた法的・制度的な対策を講じることは、今後一層重要となるでしょう。持続可能なマンション管理を実現するためには、区分所有者一人ひとりの意識向上とともに、社会全体でこの問題に取り組む必要があります。





