日本全国でクマによる人身被害が相次いでいる。その「攻撃力」はどれほどのものか。クマ問題を取材するライターの中野タツヤさんは「ヒグマは、ウサイン・ボルト選手よりも速く走り、前足から繰り出されるパンチの威力は約2トンもある」という――。
【写真をみる】「クマvs.ライオン」の戦いが起きた現場となった動物園
■ヒグマの「前足パンチ」の威力は約2トン
野生動物の中でも最強とも言えるのがクマ類だ。中でもヒグマは非常に大きく、大きな個体だと体長3メートル、体重は300キロにもなる上、時速約50キロという高速で走ることができる。
100メートルを約7.2秒で走れる計算で、ウサイン・ボルトが記録した世界記録の9.58秒よりもかなり速い。
しかも力が非常に強く、ヒグマの強靭な前足から繰り出されるパンチの威力は約2トンもあるという。
一方、「百獣の王」と言えばライオンだ。大きな個体のオスは体長約2メートル、体重約200キロと、ヒグマより小さい。
ただ、ライオンの最大の強みは足の速さで、最速で時速約80キロで走ることができる。100メートル走に換算すると約4.5秒という速さだ。
この2種類の動物が戦ったら、どちらが勝つだろうか。
もちろん、通常ヒグマとライオンの戦いは発生しない。両者の生息地域が異なるからだ。
ライオンの生息地域は主にアフリカ大陸のサハラ砂漠より南のサバンナ地帯とされる。一方、ヒグマはユーラシア大陸と北米に広く分布し、周知の通り日本でも北海道に生息しているが、アフリカ大陸にはいない。
このように、「ヒグマvs.ライオン」は本来ありえないのだが、戦いが実際に起き、大きな話題となったことがある。それも場所はお隣の国、韓国だというから驚きだ。
一体どんな事件だったのだろうか。また、ヒグマvs.ライオンの結果はどうだったのか。詳しくご紹介しよう。
■韓国の動物園で起きた「戦い」
韓国、慶尚南道の晋州市にある「晋陽湖動物園」は、晋州市が管理する公営動物園で、晋陽湖公園に併設されている。湖のほとりにある美しい動物園として、1986年1月20日の開園以来、地元市民をはじめ、多くの来園者に愛されていた。
そんな晋陽湖動物園で事件が起きたのは、2014年11月29日。
晋陽湖動物園では12歳の雄のヒグマ「ウンビ」を飼育していた。同じ檻の中で、20歳の雌ライオン「スニ」も飼育していた。檻の広さ横15メートル、縦7メートルで、中に鉄格子を設け、ヒグマとライオンのスペースを分離していたという。
鉄格子にはドアが設けてあり、互いに行き来できる構造だった。もちろん、そのドアを動物が開けてしまわないよう、南京錠がかけられていたという。
ただ、この日の朝、ヒグマのウンビが鉄格子を越えて、ライオンのスペースに侵入してしまった。鉄格子に設けられたドアが経年劣化によりもろくなっていて、ヒグマの前足のパンチにより破壊されてしまったようだ。
たちまちヒグマとライオンの間に戦いが発生した。
と、そこに晋陽湖動物園の飼育員が駆けつけ、吹き矢で麻酔薬を注射し、絡み合ったヒグマとライオンを引き離したと中央日報が報じている。
■なぜライオンは死んだのか
翌日、飼育員が出勤し、ライオンが死んでいるのを発見した。
このライオンは20歳の雌で、人間の年齢に換算すると約70歳にあたる。体重は約100キロとあまり大きくはなかった模様で、ヒグマとの格闘には耐えられなかったのかもしれない。ライオンの強みはその走力だが、檻の中という限定された空間では、その強みを十分に発揮できなかったとも言えるだろう。
事態が複雑になるのはここからだ。
晋陽湖動物園は、この雌ライオンの死を「病死」として晋州市に報告したのである。
先ほどの中央日報の報道によると、飼育員は「ライオンの肩の部分の毛が少し抜けていた以外に、特別な外傷はなかった」とし、「抗生物質と栄養剤を注射した後、異常がないことを確認して午後6時に退勤した」と語っている。
ライオンを解剖した獣医は、「ライオンは老いていて1週間前から全く食事が取れず、栄養剤で耐えていた状態で、状態が良くなかった」とし、「解剖でも外傷はなく、大腸の出血と肝臓の炎症などが発見されたため、老化による自然死と判断した」と語ったという。





